第二章 オアシスに眠る火竜  

第23話  旅の再開

 エリサは、このミノムシ状態からの脱出を考えていた。


 風の縄なので、水や、風には効かないだろう……


「針葉樹の貴婦人、火竜の精、力を貸して!この縄を解いてちょうだい」


 クライヴが、エリサの事を他の騎士に見張らせて、食事に行った隙に逃げ出す算段をしていたのである。


 と、いっても、行く当てはなかった。

 銀の森へ連れ戻されてもロイルの姫の話し相手だ。デュール谷へ帰っても、きっとまた閉じ込められてしまうのだろう……


 もっともっと、広い世界が見たい。

 そんなエリサの夢を分かってくれたのは、長馴染みのミシャールだけだった。

 だが、ミシャールも優しさゆえに言ってるだけだと、エリサは見抜いていた。


 銀の縄から、不思議な煙が出ているのを見て、騎士は慌ててクライヴを呼びに行った。


 確かに頑丈な縄だ。でもエリサの力でもってすれば、解くことは可能だった。


「こらこら、無理やり解くと火傷をするわよ」


 聞き覚えのある声である。


「母様!!」


 アリシアはミノムシ状態のエリサを見て、吹き出した。

 そして大爆笑。機嫌が悪くなるエリサ。


 そこにクライヴが戻って来た。


「保護者が来たようだね。じゃあ、解いてあげるよ」


 クライヴが縄に手をかざしただけで、スルスルッとほどけていった。


「母様、若長わかおさは?私お城に連れていたから、いつ別れたかも知らないのよ」


「若長ならよ」


 アリシアの後ろに銀の長い髪を後ろでざっくりと三つ編みにして、どう見ても旅服を着ているティランがそこにいた。


 銀の森を出て来た時とあまりにも印象が違う。

 あの時は急いでいたし、切羽詰まっていた。

 今は、あの時の繊細さがなく、堂々として見えた・


「ティ……ティラン……よね?」


「他に誰だというのですか?」


 若干、声が低くなったと思うのはエリサだけだろう。


「正式に光の神殿や、予見師のジェドにもお許しが出たのです。母上を探す旅を続行して良いと」


「大丈夫なの!?あなた飛ぶことも慣れてないし、少し魔法を使うだけで、倒れてたじゃない!」


「心配はいりませんよ。奥方が守ってくれますから。それより、あなたも着替えて下さい。荷物は僕が持ちます。着替えたら出発ですよ」


「ちょっと、待って。あなたのお母様捜しになんで私があなたに同行するのよ」


「初めて、手掛かりを持って来たのがあなただからです。それが?」


 エリサは、セシリーアン姫君用のドレスを着ていたので、街路樹の後ろで着替えを始めた。

 母の顔を見ると、黙っていた。


 アリシアは一言「行ってらっしゃい」とだけ言った。

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