第17話  ロサの療養所

 エリサたちは、銀の森をに抜けると一旦北上した。

 そこには、ロイルの神殿の持っている守護の森があり、エリサの父のレフが団長を務めるレフ・クライヴ騎士団があった。

 ロサ王国は、大国のヴィスティンと守護の森に囲まれた小国で、人口も少ない静かな国だ。小国故に豊かでは無かったが、王が熱心な神殿の信者であったために、神殿から優遇されて、銀の森に来た巡礼者にロサを特別に観光させるなどして民は日銭を稼いでいた。


 ティランのために建てられた療養所は、ロサの都からは大分外れた所にあった。


 着いた途端に目を回して、倒れたティランを半ば引きずるように、ベッドに運んで寝かしつけたのだ。


 ティランの上には、風の奥方が心配そうに見下ろしていた。


 エリサは、庭から摘んできた薬草で、基本的な強心効果と疲労回復の薬湯を煎じて持って来た。


「奥方、これは飲ませても大丈夫?」


 <デュール谷の姫、ありがとうございます。是非お願いしますわ>


 奥方がそう言ったので、ティランの寝ているベッドのサイドテーブルにプラスチックのコップを置いた。そして奥方に質問した。


「ねぇ、どうして彼は、こんな身体なのに母様を振り切ってまで来たの?」


 <あなた様の持っていた髪飾りを見て、居ても立っても居られなくなったのでしょう。カタリナ様は、その髪飾りがお気に入りでしたから…… そして、その髪飾りが初めての手掛かりですわ……>


「奥方様は、何時いつ居なくなったの?」


 <五年前ですわ、突然、煙のように姿が見えなくなりましたの>


 風の奥方は、心配そうにティランを見守っていた。

 「ふうん」とだけ言ってエリサは、ベッドから離れると頭上の風の騎士を見上げた。


「リカルド、風の奥方と知り合いなの?」


 <……>


「知り合いなんだ~奥方は、名前を教えてくれないかしら~」


 <ばっ!!馬鹿かっ!!お前、自分が分かってないな!!奥方の凄さも!! 俺の何百倍も生きてる高位の精霊だぞ!!>


「ふ~んだ!リカルドさぁ、ロイル姓の母様を見限って、なんで私のところに祝福に来るのよ。私にだって選ぶ権利は欲しいと思うんだけど?」


 <にっ……似てると思ったんだよ……お前の魔力の強さが知ってる奴に……だから……>


 風の騎士は、歯切れ悪く言った。


「昔の契約者ね?リカルドは馬鹿ね~私は私よ~」


 屈託なく、エリサは笑った。

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