第16話  追跡者

 <奥方……頼むよ、力を貸してくれ~~>


 風の騎士が根を上げて、透けた色っぽい風の奥方に頼み込んでいた。

 とにかく、早く銀の森を出てしまわなければならない。

 今捕まってしまうと、祝福者たるエリサの身がどうなるか分からないのだ。


 自分の力を120%引き出せるエリサでも、複数人を抱えて全力で飛ぶのは難しい。しかも、飛ぶのが始めてなんて初心者がいるのでは、気を使って力任せも出来ない。


 風の奥方は沈黙していた。


「ねぇ……風の騎士、遅くない?」


 <これ以上速度を上げると、若長わかおさが目を回すぜ>


 エリサが、ティランの様子を見ると、本当に気分が悪そうだ。

 あながち、飛んだことがないのというのも本当のようだ。

(こんなに高位の精霊を連れているのに?)である。


 エリサは、仕方なくティランに肩を貸す形で飛んだ。

 もうすぐ、銀の森の西の端に着く。

 そこまで行けば、人々の中へ紛れてしまえば良い。


 銀の森の西の境界は、大国ヴィスティン王国の第二の都市、エラドーラに続いていた。


 その時である。


「「「そこの二人待て!!」」」


 ティランはドキリとして、後ろを見た。

 銀色の外套を着た魔法使いが追いかけて来るではないか!!

 しかもエリサのスピードが落ちている。


「母様だわ……」


 エリサは、止まろうとした。


「あなたの母上は、神殿の魔法使いでしたか……ランクは?」


 後ろを振り返りつつ、言った。


「見ての通りのロイル姓よ」


「それは、不味いですね。経験値がある分だけ彼女の方が上手です」


「「「お身体のことを考えて下さい!!若長!!」」」


 アリシアの悲鳴に近い言葉が飛んで来た。

 だが、ティランはその言葉を無視した。


「奥方、追跡者を振り切って取り合えず、ロサの療養所へ行って下さい」


 <承知しましたわ>


 エリサとティランの飛ぶ速度が三倍になって、アリシアは二人を見失ってしまった。

 アリシアにしてみれば、娘に会いに行く直前の事で、銀の森の行く先々で問題行動を起こしているエリサを何とか説得して、谷に帰ってもらう予定だったのにである。


 長の屋敷の結界が綻び、脱走者が出た。

 それがティランとエリサだといち早く気付いたのは、神殿で水晶占いをしていた若長の守役のジェドで、アリシアもそこにいた。

 そして、追跡者に選ばれたのだ。


(こちら、アリシア、任務失敗)


 アリシアは、双子石で光の神殿のジェドに報告した。

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