第12話  銀の森の若長

「……ン……ラン……!!」


 銀髪に近い金髪の老年の男は、困ってしまった。

何時も、そうだ。

 少し、自分が所用で席を離れている間に、この少年は自分の風の精霊を使って母親探しをしてしまう。

 自分の妹が生んだ甥とはいえ、彼はこの世界のほとんどの人が信じる光の神、イリアス・エル・ロイルの系譜の直系であり、次代のロイル家の当主、ロイルのおさになる者と定められた者だった。

 銀色の髪と銀色の瞳を持つ、神の姿を写した様な外見である。


『ティラン・マクシム・エラン・ビルラード・エル・ロイル!!』


 元、ビルラード王国の王だったラルフォンは、甥を呼び戻すために古代レトア語で本名を呼んだ。


焦点の定まらぬ銀色の瞳が、輝きを取り戻した。


「伯父上!?ラル……?」


「また、風の奥方を使っていたね?いけないよ、君の身体で無茶な魔法の使い方は……」


 若長わかおさのティランは、伯父のラルフォンに真っすぐに瞳を見つめられて、うつむくことしか出来なかった。


「でも……もう、母上が突然居なくなって五年ですよ」


「カタリナが心配なのは分かるが、自分の身体も大事にしなさい。ミルドランが帰って来るそうだよ。早く帰りなさい」


 ラルフォンは、東方の美姫と謳われた妹のカタリナにソックリな甥には弱かった。

ティランは身体も弱かったのだ。


「はい……」


「ティラン、私がここで魔法を教えているのは、内緒だよ」


「分かってます。父上や神殿は、僕に魔法を教えることは禁止としているのでしょう?」


「そうだ。守役の予見師にもバレない様にしなさい」


「ジェドにはバレてると思いますよ?」


「やはり、予見師に秘密にすることは無理か……」


「そうですよ」


 二人は笑い合った。


「行きなさい」


「はい、伯父上」


 ティランは、伯父の館から自分の館に風の奥方の力を借りて戻って来た。戻るといっても、すぐ隣なのだ。


 屋敷の裏側の二階の窓から、自室の部屋に戻ってベッドの潜り込んだ。


と、同時に部屋の扉が開いた。


「ティランく~ん!!三日ぶり~良い子にしてた?熱は?

顔が赤いね、息も上がってるし……ジェド!!ジェド!!」


 父のミルドランが、久しぶりに旅から帰って来たのだ。

 顔が赤いのは、思い切り抱きしめられているからで、息が上がっているのは、急いでラルフォンの所から帰って来たからだ。


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