第6話  謎の幻影を追って……

 ミジアこと、ミジェーリアは、エリサの祖父で銀の森の光の神殿の三賢人の妹で、実質谷を実権を持っていた。

 西域で、巫女の修行をして帰郷したが、谷を治めるべき兄は、地位と名誉が大好きで、三賢人の座に固執して帰ってこない。

 仕方なく、次の谷長が育ってくれるまで、ミジェーリアがデュール谷を預かっていた。


 ミジェーリアの治療師としての腕は、抜群だ。遠国からも治療依頼が来る。


 エリサは、ミシャールと戻ると既に、屋敷に着いていたミジェーリアと従妹のエイミアが、侍女に足を洗ってもらっていた。


「エリサ~~ただいま。蒸気汽車を見て、魔法陣でディナーレまで行ったのよ。これ、お土産。アルテア製の髪飾りよ、お揃いなの」


 エイミアは屈託なく言う。

 エイミアは、金色の蝶の形の髪飾りを二つエリサの前に差し出した。


「エリサは、お留守番だったから、大きな方をあげるわ」


「うん、ありがと……」


 エリサは、エイミアに礼を言うと、くるっと頭を纏めて、髪飾りで留めてみた。


「似合う?」


「うん、うん」


 エイミアは、嬉しそうに言った。

 金茶の巻き毛を、高い位置で括って、ピンクのリボンをしている。

 彼女は、幼い頃の初恋を健気に思い続け、後二年経ったら、彼のいる西域(アルテア王国)にある王立の学院に入る事を夢見ている。


「さすがに、王家の血筋ね~~結った髪方も似合うわ」


 エイミアは、羨ましそうに言った。レフとレフの弟は異母兄弟なのだ。

 したがって、エイミアには、ヴィスティン王家の血は流れていない。


「あんまり嬉しくない話だわ……」


「エリサ!!私が留守だと思って、結界の中を暴れまわったね?

 結界がヒビが入ってるじゃないか!!結界を頑丈しておいて良かったよ」


 ミジェーリアが、怒鳴って2人の部屋の中へ入ってきた。エリサは、不機嫌そうに横に向いた。


「不公平だわ。ミジア!エイミアばっかり、外に行って!私だって行きたいのに!」


「お前の存在が、神殿に知られたら厄介なんだよ!!大人しくしておいで」


 ミジェーリアは、無表情な顔で言った。もちろん、エリサには、意味が分かっていない。



 ♦



 その日は満月であった。冬至の日だった。

 結界の中のデュール谷の中には、関係は無いが夜の時間が一番長い日だ。

 満月は、精霊たちの魔力の強まる夜だ。


 デュール谷は、精霊の生まれる地でもあった。

 生まれたばかりの精霊は、下位のために大した力を持たないが、エリサの持っていた精霊は違った。


 泉の主、光の神の総本山の銀の森の生まれの風の騎士、それから、父から火竜の精まで奪っていた。皆、上位の精霊だった。


 エリサは、土産の髪飾りを見つめながら、ブーたれていた。

 横では、従妹のエイミアが長旅に疲れて寝息を立てていた。


 その髪飾りを見ていたら、1人の女の人の幻影が浮かんで来た。

 見たこともない、美人だということは、幻影なりに分かった。

 美人の幻は、髪飾りから抜け出すと窓を抜けて、外に出て行った。


「待って!!」


 思わずエリサは、女の幻を追った。


 <ダメだ!!エリサ!!>


 風の騎士の制止も聞かず、


「リカルド、追って!!」


 風の騎士は、契約者の言う事を聞かなければならない。


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