第4話  母、アリシア

「あ~あ!!ミジアがいないと思ってやらかしたわね?レフの火竜が、なんでエリサの左肩にいるのよ?私からリカルドも連れてったくせに~」


「人聞きの悪いことは言わないでよ!リカルドとは、合意の上で契約を切って私の祝福に来たのでしょう?火竜だって、挨拶をしたら向こうから来たのよ」


 アリシアは、娘の大きすぎる魔力をどうしたもんかと悩んでいた。


 エリサは、魔力も強いが、精霊を引き付ける力もあるらしい。

 いわゆる、精霊に愛される質なのだ。


 レフの弟が、そんな性格であった事を思い出した。


「ねぇ、母様……何が起きてるの?結界の外の世界が騒がしいわ」


「フ~ン、お前にも分かるの?さすがね。でも、エリサには関係の無い事だから、お前は、ここで大人しておいで」


「う~~」


 エリサの顔がカエルのように膨らんだ。


「似合わないから、やめなさい。ヴィスティン王家のお義母様にせっかく似て、美人なのに」


「嬉しくない言葉だな」


「レフ」

「父様」


 レフが二人の所に来た。


 アリシアの深紅色の外套を見て、クスリと笑って言った。


「二流の深紅の外套は、着心地はどうだ!?」


「悪くないわ」


 エリサは、自分の両親を見て時々不思議に思っていた。二人が、抱き合ったりキスをしたりしているところを見たことが無いのだ。

 父も母もエリサには抱きしめてもくれるし、おやすみのキスもしてくれる。

 なのに、人前では二人とも他人の様な喋り方だった。


「もう1度、ロイル姓が貰える機会が出来たモノ」


「?」


 アリシアの不敵な笑いにレフは背筋がゾクリとした。


「レフは、もう魔法使いはならないんでしょう?だったら、頭上の風の精霊ををチョーダイ!」


「ば……馬鹿か!!この精霊は、学び舎で契約した初めての精霊だぞ」


「銀の森で、風の精霊と契約したけど、二流に落とされてしまったわ。

 それで思い出したの!!レフの風の精霊ってそこそこ力が強かったわよね?魔法鍛冶を手伝えるくらいですもの」


 レフは、複雑そうな顔をした。


「騎士としてだって、風の力は必要だ。第一俺の契約精霊は、風の女戦士の異名だ、やれるものならやってみろ」


「ふ~ん、じゃあ、エリサ。レフの頭の上にいる精霊の名前は何て言うの?」


「エウレカよ」


 レフは、エリサの口を押えたが、エリサは正直に答えてしまった。


『そうか、エウレカ。私はアリシア・フレイドルよ。魔法の使えないレフより私と契約しない?』


 <ううぅ……ごめんよ……レフ。魔力の強さに引っ張られるんだ……>


 肉体を持たない精霊は、名前をとられると魔力の強い方へ自然に行ってしまうのだ。戦衣を着た女の精霊は、アリシアの頭上へと移ってきた。


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