第3話  母の帰還

 ミジェーリアとエイミアは、わずかなともとエラドーラへと向かった。

 ミジェーリアが気が付く前に、エリサはレフの火竜の精を奪っていたのである。


 エラドーラは、デュール谷より、南西にある、ヴィスティン王国第二の都市で、王都のディナーレまで蒸気機関車が通っている。

 エイミアは、それを見るのが楽しみなのだった。


 レフの火竜の精をミジェーリアが旅支度で忙しい間に、ちゃっかり自分のものにしたエリサは、しこたまレフに叱られた。


 だが、レフの言葉はエリサに入ってこない。


 母のアリシアの帰還が、何より嬉しかったのだ。


 ロイルの長の奥方の失踪。

 神殿は、そんな問題を抱えていた。


 奥方の失踪は、全く突然だったのだ。

 前日の夜までは、普通に暮らしていた。若長と姫と夕食をとった後に、少し姫の大地の魔法の手ほどきをして、就寝したと……召し使いたちは言っている。だが、次の日の朝から、奥方のカタリナを見たものはいなかったのである。


 光の神殿のすぐ近くの長の館。

 しかも、カタリナの大地と風の魔法は、学び舎に行ってなくても相当なもので、ほとんど押しかけ婚のように、長のもとに嫁いできたのだ。


 その奥方の失踪のせいで、エリサの母のアリシアまでもが、光の神殿勤務になってしまった。


 奥方を探すために、大大的な捜索隊が作られ、アリシアも元ロイル姓の魔法使いとして呼ばれたのだ。


 でも、母が行ってから三年経っても進展は見られなかった。


 生命反応は、感じられる…… くらいだ。


 エリサは、母が大好きだった。いつも突拍子の無いことをして、ミジェーリアに叱られていたが、母と会えるなら今回は我慢しよう。


 エリサは、父のレフ似なので、アリシアに似たところは特になかった。

 ところがアリシアは、自分が生んだ子がレフにソックリな事が大満足で、エリサの事をとても可愛がってくれた。


 従妹のエイミアには、両親がいない。

 父は、レフの弟だが魔法鍛冶のレフの仕事場に来た折に火竜を怒らせて、消滅した。

 母は、デュール谷の中のディニル村一の美女だったが、窮屈なフレイドル家の家風が合わずに、商人と駆け落ちをしたのだ。

 アンドリューは、それをはかなんで魔竜谷の火竜をけしかけたらしい。



 ♦



「また、置いてけぼり食らったんだって?」


「母様~」


 夜遅くにアリシアが帰って来た。

 深紅色の魔法使いのマントを纏っていた。


「はいはい、面白いものを持って来たから」


 母に甘えて抱き着いて行こうとするのをアリシアが一枚の葉っぱを見せて止めた。


「え?銀色の葉っぱ?」


「これが、銀の森のリドムの葉よ。珍しいでしょう」


「うん」


 だが、エリサが受け取ると、リドムの葉は、普通の緑色の葉に戻ってしまった。

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