第27話 みーちょの足取り

『みーちょの足取りが掴めたらしいわよ』


 グループチャットに入った零子からメッセージで、ミス研部員たちは朝から学校。部室に集まっている。

 改装は終わり、暑苦しかったこの部屋にもエアコンが付いた。

 快適~!

 

「合宿一日目のメニューはどうする?」

 水木は、早速、合宿の話合いを進めたい様子だが、誰も水木の問いかけに反応しない。

 それどころじゃないのだ。


 宇佐美は、検査の結果、脳や骨には異常なしという事で、入院からわずか3日で退院した。

 退院した次の日に、早速部活動。


 バキバキに割れたスマホは、飯田の手によって、どうにかデータ取り出しに成功。

 以前使っていたアイフォンに、連絡先や写真なんかのデータ移行してもらい、息を吹き返した。


 青山優斗を装ったティックトックのアカウントは、迷った末、残しておくことにした。

 警察が動き出した時、何かしらの証拠になるかもしれない。


 佐倉の命が狙われているかもしれないと言う事は、相沢のアドバイスの元、警察に通報済みだ。

 佐倉の身辺は、警察がパトロールを強化すると言う事で、一旦、佐倉自身も落ち着きを見せている。


「で、みーちょは生きてたのか?」


「目撃された時はね」


 零子はそう言って眉間を曇らせた。


琥珀村こはくむらっていうキャンプ場で、目撃情報があったんだって。一昨日の夕方ごろに、一人でキャンプ場をうろついていたらしいの。キャンプ場にはおよそ似つかわしくない真っ赤なキャミワンピ姿で、髪はボサボサ。目はうつろだったって。目撃した人が大丈夫? って声をかけたら怯えたように逃げて行ったらしいの」


「それって、どういう状況?」


「パパが言うには、薬物か何かやっている可能性があるって」


「薬物かー」


「危険ですね。それでもなお、警察は動かないのでしょうか?」


「確定してるわけじゃないからね」


「あなた達、相沢さんのお父さんからも、あまり首突っ込まないようにって釘刺されてたでしょー、全くもう」

 水木は、呆れた様子で、一人、合宿の献立を作っている。


「一人でいたって事は、何かから逃げてるのか? 佐倉さんは、みーちょって逢った事ないの? 一応同業者みたいものなんじゃないの?」


 落ち着きを取り戻した佐倉も、今日から本格的に部活動に参加する事になった。

 一人でいるより、誰かといる方が気が紛れるし、安全だという、部員たちの意向もあり、半ば強制的に参加させたのだが。


「逢った事はないけど、よく知ってるわ。私のティックトックライブによく来てくれてね。ギフト投げてくれたりしてたの。私も、みーちょさんのインライには行くようにしてたし、拡散協力とかも積極的にやってた。それぐらいの関係だけど、心配だわ」


「ミスターFは? 知ってる?」


「動画は見た事あるわ。私、ああいう暴露系とか好きじゃないから、基本的には見ないんだけど、たまたまおススメに出て来たりしてて」


「あいつ、何物なんだろうな?」


「動画配信のアーカイブをいくつか見たんですが、基本的には真っ白な壁をバックに動画配信を行っています。たまに、倉庫のような場所で撮ってるのがあるんですが……」


「倉庫?」


「はい。これなんですけど。マンションやアパートなら、どうにか特定できるんですが、これは多分戸建ての倉庫のような場所だと思うんですよね。うちの倉庫もこんな感じです」


「ああー。古い家の離れ屋みたいな所か」


「見せて」


 零子が宇佐美の肩越しに身を乗り出す。

 その画像に、水木も興味を示して首を伸ばした。


「うーん。確かに。マンションやアパートではないわよね」

 零子は更に食い入るように画像を眺める。

 水木は、再び腰を落とし、献立作りに戻った。


「ねぇ、これ、卒アルっぽくない?」

 ミスターFの肩越しに見える棚には書籍がたくさん並んでおり、エンジ色の背表紙はひと際目を引いた。

 しかもそこには2冊の同じアルバムが並んでいる。


「本当だ。拡大してみましょうか」

 飯田はその部分を指で広げた。


「え?! これって……」


 宇佐美はその文字を読み上げる。


「平成28年度 私立柏木商業高校卒業アルバム」

 その隣はもっと古い。平成18年度のアルバムだ。


「平成28年度という事は、西暦2016年」


「やっぱり、フタバ……なのかしら?」


「バズに執着を見せていた点で考えれば、やはり、ミスターFはフタバと見て間違いなさそうですね」


「この隣のアルバムは恐らく兄弟の物だろう。10歳年の離れた兄だか姉だかがいるんだろうな。

 問題は、動機なんだよなー。双葉の目的はバズのはずなんだが、なぜわざわざ斉賀を殺さなければならなかったのか。双葉のターゲットは佐倉さんじゃなかったのか? そこが妙に引っかかるんだよな」


「ターゲットが変わったとは、まだ言い切れないわ。今後、佐倉さんが狙われる可能性はゼロじゃないと思わない?」


「しかし、契約をした斉賀はもう死んでるんだ。斉賀との約束を果たす必要はないだろう? 俺は、その可能性は限りなく低い気がする」


「斉賀君は、どうして私を殺したかったのかしら?」


 佐倉は口元に組んだ両手を添えて、一点を見据えた。


「それは……たぶん、単なる嫉妬だと思うよ」


「嫉妬?」


「俺も、斉賀の気持ち少しわかるんだ。なんであいつに負けちゃうんだ? なんで俺はいつもあいつに勝てないんだ? って思い。

 まして、それが自分の彼女だったら……。

 斉賀なりに苦しんだんじゃなかな。

 でも、きっと、双葉に交換殺人なんて持ち掛けられなければ、その思いが殺意に変わる事なんてなかったはずなんだ。

 人の心の隙間に入り込んで利用するだけ利用して、切り捨てるなんて――。

 絶対にゆるせねぇ。絶対に尻尾掴んでやろうぜ」


「はい」


「もちろんよ」


「琥珀村ならここから電車で一時間ぐらいだよな。もしみーちょがフタバから逃げてるんだとしたら、その前に俺たちで探し出して助けようぜ。みーちょは絶対、決定的な情報を持ってるはずだよな」


「その辺でやめときなさい。証拠は何一つないんだし。仮にビンゴだったとしても、自分たちの身が危険に晒されるだけよ」


 水木はいつになく厳しい口調でそう言った。

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