第17話「ウチの凪咲をたぶらかしたんは、お前か!?」と言われました。

宮城によると、放課後ファミレスに連れてくるそうだ。

ということで俺はホームルームが終わった後すぐに学校を出て、待ち合わせ場所のファミレスにいるのだが、どうしてか予定時刻になってもなかなか来ない。


どうしたもんか……

というか少し腹も減ってきたな。

何も頼まないでずっと居座るのも悪いし、何か食べるか。


そう思ってメニューを開く。

あーそうだ。そういえば宮城と初めて待ち合わせした時もこのファミレスに行ったな。

そん時何食べてたっけか。


めくっていると見つけた。これだこれだ。唐辛子香るペンネアラビアータ。

折角だしもう一回頼むか。


そう思って店員さんを探そうと周りを見回したら、外に宮城と女の子の姿を見つけた。

あ、この子が青柳みやびちゃんか。

うん、インスタの投稿と変わらず大きいな……どことは言わんけど。


そう思っていると、宮城が俺に気づく。そして数秒遅れて青柳も。

ん? ただ青柳が俺に気づいた後の反応がおかしい。なにやら宮城に詰め寄っているようだ。怒っているように見える。


一体何を話してんだ?


そう不可解に思いながら待っていると、二人がファミレスに入ってきた。


「何名様ですか?」


「あーいや、待ち合わせてるんで大丈夫です」


後ろから宮城の声が聞こえる。

そして二人が俺の目の前に現れた。


「佑都くんおまたせー! はい、この子は青柳みやびちゃん!」


宮城が笑顔で両手を青柳に向ける。


青柳は少しおどおどしながら俺を見て、口を開いた。


「ど、どうも初めまして……青柳みやびと言います」


「ああ、俺は桜井佑都って言います。よろしく」


立ち上がって握手をする。なんか思ってた印象と違っておとなしそうな子だな。

そう思っていると宮城が笑いながら注釈をした。


「みやびちゃん人見知りだから今緊張しちゃってるみたいだけど、普段はそんなこと無いから」


そんなことを言うと、今度は青柳が宮城を見て返す。


「いや、ウチそんな変わんないよ?」


ほほえましい会話だな。と二人を見ていると、

突然、右手に強烈な痛みが走った。

え? 見ると握手した手が超思いっきり握られている。

ええどういうこと? そう思って青柳を見ると……


鬼の形相をしていた。


ちょっと待て。

俺はどこでこの子をそんな怒らせたんだ????


あまりに驚いていると、青柳はパッと手を離した。

表情ももとのおどおどした感じに戻っている。

……んん? 今のは幻覚か??


宮城は何も分かっていない顔で話し始める。

まあいいか、俺の変な勘違いだろう。


「それじゃ座ろっか! みやびちゃん何食べたいー?」


「えーじゃあチョコブラウニーパフェ!」


「何それめっちゃ女の子じゃん! うらやま! 私は普通にポテトフライです」


宮城の奴……そういえばお前二人で来た時もポテトフライ頼んでたな。

好きなのか?


……いや、あいつのことだからきっとみんなでわけあうのが好きなんだろう。

分かんないけど、そういうとこってあいつの良いところだよな。


「ねえ、佑都くんはどうする?」


「あ、ああ。じゃあ俺はこのソーセージ盛り合わせで」


本当はアラビアータ食べたかったけどな


そう言うと宮城ははて……とした顔で俺を見て、そして笑った。


「やるじゃん」そう小声で言われた気がした。


一通り注文を終えると、宮城が活発に話し出した。


「でさ、さっきも話したと思うんだけど、私この前から佑都くんと一緒にYouTubeをやることになったんだ!で色んなSNSでYouTubeチャンネルの宣伝とかしてみたいなーって思っているんだけど、ほらみやびちゃんってインスタグラマーじゃん!だから結構詳しいかなって」


宮城にそう言われた青柳は、へへへと照れながらも、姿勢をきっちり整えた再び話し始めた。


「うん、分かってる。私はポートレートという形で被写体の画像をインスタに載せているだけで細かい運用マーケティングとかは分からないけど、ある程度は知ってるからそれは伝えるね」


そう言って青柳はインスタを開いた。


「インスタっていうのは要は画像で伝えるSNSなわけだから、画像で興味を引く必要があるの」


「ほうほう」


「だからまずフォロワー数を上げるなら、その画像にこだわるべきっていうのが王道かな」


「じゃあ画像をしっかり作ったとして、多くの人に見てもらいやすい方法ってあったりするのか?」


俺がそう聞くと、青柳は俺にスマホの画面を見せてきた。


「これ、今はインスタのホーム画面だけど、左から3つ目のこのポップアップ。これは発見欄って言ってね。人気のある投稿や利用者が興味のある投稿が自動で流れる仕組みなの」


「……なるほど」


「つまりこの発見欄にさえ乗ることが出来れば、それすなわちバズになる。多くの人に見てもらえることに繋がるわ」


やっぱり直にインフルエンサーと話すと自分の知らなかった世界がこれでもかと広がるな。

俺はこの表示が発見欄と呼称されていることも知らなかった。


「発見欄に載れば見てもらいやすいっていうのは分かった。でもそれってどうせフォロワーが一定数いなきゃ……とかある程度種で見てもらえる人がいなきゃ……って世界だろ。一日二日でどうにかできるわけじゃない」


「もちろんそうだけど……一日二日でどうにかしたいの?」


「いや、俺たちは1年後までに登録者10万人になっていればいいから、まだ余裕はぜんぜんある」


「それなら地道に伸ばしていく他ないわね」


「でもな、インスタって実際どうやって最初はフォロワー稼ぐんだ?」


すると青柳が再びインスタを弄って、俺にフォロー欄を見せてきた。


「YouTubeはチャンネル登録者数っていうシステムだから出来ないけど、インスタは指標がフォロワーなのよ。だからいいコンテンツを投稿するだけじゃなくてもう一つフォロワーを増やす施策がある」


そうして青柳が説明したのは、俺にとって驚愕の内容だった。


「まず同じジャンルで尚且つフォロワーの多いアカウントを探して、そのアカウントのフォロー欄をチェックする。そこから鍵がかかっていないアカウントを見て、そのアカウントの投稿直近3つをいいねする」


「これをインスタグラマーの間では『どさ周り』と呼んでいるのよ」


なるほど、そういうことか。自分が登校するジャンルの類似アカウントのフォロワーを潜在顧客と認定した上で、そのターゲットに対して自分からアタックをかけていけるということか。


確かにこれはYouTubeとは違う、インスタならではの戦略と言えるだろう。

流石伊達に10万フォロワーを抱えていないということだ。


「なるほど、これは凄いことを聞いちゃったな。最初のムーブってのが一番大変なSNSにおいて、こういう活動が出来るのはめっちゃいいことだな。早速帰ったらやってみるぜ」


俺はそう言って、青柳に感謝を伝える。


「ほんとにほんとに! これからも色々教えて欲しいくらい!」


宮城がそう言って抱き着くと、青柳はとても嬉しそうだった。

そう、女の子に抱き着かれた男みたいな感じで。


「その……ウチで良かったら幾らでも話聞くから……何か分からないことあったらいつでも聞いて?」


青柳はデレデレで顔を真っ赤にさせながらそう言った。

何でそこまで照れてるんだ?……褒められ慣れてないからかな。まあいいか。


そんなことを思っていると、宮城が突然立ち上がった。


「ごめーん私ちょっとお手洗い! 二人で話しててー」


そうして俺と青柳は二人きりになった。


俺は青柳を今一度見る。

今回の件、俺たちの自分勝手で呼び出しちゃったかもしれないけど、それでも彼女も真剣に答えてくれたな。実際のアドバイスも非常に参考になったし、何より宮城にクリエイターの女友達がいたことが嬉しい。


一緒に悩みを共有できる人がいると、動画制作も楽しくなるからな。


「ありがとうな」


俺は素直な気持ちを青柳に伝えた。


「宮城、最近将来のことで少し不安になっていたから、こうやって色々やるべきことを教えてくれて嬉しいよ」


重ねて伝える。


……

…………


しかし、青柳からの反応は無かった。

あれ、おかしいな。聞こえてないのかな……

それとももしかして、俺無視されてる?


そんなことを思っていた……次の瞬間だった。


ガバッ!!!!!!!!!!


青柳が勢いよく身体を前に出してきて、思いっきり俺の胸ぐらをつかむ。

余りの衝撃に俺も「グッ!!!」と声を上げてしまう。


えええええええええ、ちょっと待って何が起きてるんだ。

……俺、青柳にすげー怒られてるみたいなんですけど……


恐る恐る彼女の顔を見ると、やはり鬼の形相をしている。

それはさっき彼女と握手しているときに見せた、あの顔と全く同じものだった。


「……か」


「へ?」


小さく噛みしめるような声、俺は聞き取ることが出来なかった。

一体何を言いたいんだ?


俺がもう一度聞くと、今度はめちゃくちゃな大声で


「ウチの凪咲をたぶらかしたんは、お前か!?!?!?!?」

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1年以内に学園一の美少女を登録者10万人のYouTuberにすれば付き合えるが、失敗したら退学になるようです。 @yanagi872

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