フォロワー10万人のインスタグラマー『青柳みやび』編

第16話「みやびちゃんはインスタグラマーなの!」と言われました。

YouTube活動というものは、継続が何より大事だ。


最初の動画の再生数が2でも、そのうち1回が自分であったとしても、継続していくうちにだんだんと再生数は上がってくる。

それはもちろんYouTube側にこのチャンネルはどういう人におすすめすればより再生数が伸びるかを判断してもらえるから、というものもあるが、何より大事なのは前回の反省点を踏まえ、より良い動画を作ることが出来るからだ。


視聴者維持率、インプレッションクリック率、チャンネル内循環率。まあ専門用語を出せば色々と出てくるが、要するに言いたいことは長い時間YouTubeを見てもらえるようにしましょうと言うことだ。


そのためにまず何が必要か。


そんなの簡単。自分の中で100点だと思う動画を出し続けるということだ。


そして俺と宮城は約2週間、死に物狂いで動画を制作してきた。

ジャンルが歌ってみたということもあるので俺が普段作っているゆっくり動画と比べれば圧倒的にやることは多いが、それでもこの期間で5本の動画を制作することが出来た。


そして現在チャンネル登録者は50人。何も無しから2週間でここまでこれたのはペースとしてはかなり早い。俺たちは今ノリに乗っているのかもしれない。


ところが反転、宮城はそうは思っていないらしく……


「こんだけ頑張って……登録者50人……」


かなりショックを受けているようだ。


「だから気にすんなって言ってんだろ。めっちゃいいペースなんだって」


「でもこのペースで10万人いけるかな……」


宮城がいつもより不安そうな顔で見つめてくるので、俺はやれやれと頭を撫でた。


「この前言ったろ、YouTubeってのは最初にラスボスと戦うゲームなんだって。なぜなら口コミで広がる視聴者もいないし、YouTubeからも信用されていないからな」


「うん……」

ゲーミングチェアにちょこんと座りながら、不安そうに宮城が答える。


うーん、あんま刺さってないみたいだな。

まあ確かに期限付きで延ばすってのは初めてにしてはプレッシャーかもしれないな。


俺はよし、とPCで自分のYouTubeチャンネルを開いた。そのままアナリティクス(チャンネル分析)のページに飛ぶ。


「ここでは俺のチャンネルがいつくらいから伸び始めたとか、そういうのを見ることが出来るんだ」


俺はそう言って、自分のチャンネル成長のグラフを見せた。


「ほらここ見ろ。チャンネルを解説してから3カ月目で急に伸びてるだろ。1ヶ月に3000人程の伸び率だ。登録者が付きにくいゆっくりのジャンルでもこうなんだ。歌い手のチャンネルなんかは火が付いたらとんでもないことになる」


「……確かに、3カ月目までは登録者も300人程度を推移してるのに、このときから急に伸びてるね」


「そう、恐らくエリィのチャンネルもそうだと思うぜ。だってあいつ去年の12月は登録者50人だったんだぜ」


「ええ!そうなの!だって今登録者3万人だよね?」


「そう、だからYouTubeって面白いだろ」


俺が自信を持ってそう言うと、宮城も少し希望を持ってくれたようで


「うん!」


そう、元気よく言ってくれた。


「現在チャンネル登録者数1000人を超えるYoutuberは全体の約15%だと言われている。それくらい厳しい世界。でもじゃあ残りの75%はなんでやめちゃったのかって……」


俺はグラフの1か月目を指す。


「この伸びない期間で諦めちゃったからなんだ」


「うん……私やるって決めたのにちょっと自信なくしてた。よおし!これからグンって伸びるように頑張るぞー!」


「「おう!」」


二人でハイタッチをした。その時だった。


『ドンドンドン!』


『あーーーー……やねん…………もうあいつ………………クソが!!!!』


いつもの騒音が聞こえた。


「ねえ、またお隣さんが爆発してるけど大丈夫?」


俺はもうとっくに慣れているけど、宮城はまだ引っかかるか。

そう、この家、俺が一人暮らしを始めてからずっとお隣さんがあんな感じなのだ。


平日は夜から、土日は昼から。

大体50%くらいの確率でドンドンという足音、そしてとんでもない罵声が聞こえる。

女性の声、そして関西弁だということは分かるが、それ以外の情報は分からない。


というか、お隣さんとまだ一度も会ったことがないのだ。


本当はクレームを言いに行ってもいいレベルだとは思うのだが、まあ俺にそんな勇気などあるわけなく……


「しゃあないよ。我慢しようぜ」


別に夜遅くああなるわけじゃ無いからいいよ。

と、俺は宮城に伝えた。


ということで、YouTubeに話を戻さなければ。


「まあそんな感じでさ、登録者数自体はそう気にせずとも伸びることは予想できるんだけど、なんにせよ俺たちには1年っていう縛りがあるだろ?」


「そうだね、できるだけ早く登録者を増やしていかないと……」


「だから、こうする」


俺はスマホを取り出し、Twitterを起動する。


「SNSで認知を広げるんだ!」


そう言ってスマホを天に掲げた。

ババーン!とSEが流れても良いところだ。


「おおー」


宮城がお世辞気味で拍手をする。そんなノリならしてくれるな。

なんか恥ずかしいだろ。


「でもなんでTwitterなの?」


「いやまあTwitterが一番手っ取り早いってだけで、有名な奴なら別に何でもいいぞ」


俺がそう言うと、宮城がスマホの画面を見せてきた。


「これ見て」


インスタグラムだ。俺はそこに映されていた画面をグイッと見る。

誰だ……これ。青柳みやび?


「この子は青柳みやび。佑都くんは一介も同じクラスになったこと無いから知らないかもだけど、去年までこの子と同じクラスだったの私!」


へえ、可愛い子だな。

赤みが買ったショートボブ、内巻きの髪型に綺麗な二重の眼。メガネもよく似合っているし、なにせ……うん、すっごいおっぱいが大きい。


……でも何でこの子のアカウントを見せたんだ?


そう疑問を抱いていると、宮城も俺の表情で察したのかプロフィール欄を見せてくる。


「ここを見れば分かるでしょ!」


そう言って指さされたフォロワー欄。何とその数字は


「じ、じじじ10万!?!?」


俺が驚いていると、宮城はしししと笑って言った。


「そう!みやびちゃんはインスタグラマーなの!」


マジか、ウチの学校にそんなインフルエンサーがいたのか。

というか俺よりフォロワー持っている人ウチの学校にいたのね、ちょっとショック。


ってそんなことを言っている場合じゃない。

この青柳みやびという存在は今の俺たちにとって非常に貴重だ。


なにせ俺はYouTubeを伸ばす方法は知っているが実のところSNSを伸ばす方法はビタ一文分からない。


それであれば……


「なあ宮城、今度3人でその青柳さんと会えたりしないか?」


俺がそう提案すると、宮城も笑顔で


「そうそう!私もそう言おうと思ってたの。みやびちゃんならSNSを伸ばす方法よく知っっていると思って!」


全く、今回の件に関しては宮城に完敗だ。

こういうときにクラスカーストが上位だと役に立つんだよな。


仮に俺だったら絶対クラスまたいでアポなんて取れない。

まず間違いなく下心確定認識される。


まあ、とにもかくにも助かった。

ということで俺は、宮城と一緒に青柳みやびというインスタグラマーに会いに行くことになった。

そしてこの出会いが俺と宮城の関係をまた一つ変えることを、今の俺は知らない。

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