第11話「子供扱いすんなってーの!」と言われました。
その後帰り道では特に喧嘩があったわけでは無かった。
宮城が大人なのだろう。さっき言い争いをしたことに関しては一回忘れて今日は楽しもうとエリィに提案していた。
エリィもそれに対して反発する子ではなく、せっかくお泊り会になるんだったらまあ……という感じで、ひとまず休戦の形に相成った。
俺たちは帰り道に寄った宅配ピザ屋でピザを買い、そのまま家へと戻った。
そして今、自宅のリビングでは一応のお泊り会ということで、買ったピザと俺が作った軽い料理を並べ、3人で夕食をとることになったのだ。
「ということでさっきは色々あったけど、とりあえず今日は顔合わせということで平和に始めますか」
俺がそう言うと、宮城も笑顔で続けた。
「そうだね、私も今日は折角なら楽しみたい。良かったらエリィちゃんのお話も聞かせて」
エリィは少しばつの悪い表情をしていたが、宮城の言葉を聞いて何かあきらめたのか、はあ、とため息をついた後少しだけ笑顔になった。
「分かった。あんたも悪い奴じゃなさそうだし、何よりお腹すいたわ」
良かった。思わぬバチバチに遭遇してしまったが、オチとしてはうまい具合に落ち着きそうだな。
この機を逃すまいと、俺はジュースの入ったグラスを掲げ言った。
「じゃあお疲れ様、かんぱい!」
『かんぱーい!』
※
「そう言えばエリィちゃんって、登録者はどれくらいなの?」
宮城はピザを食べながら素朴な疑問を投げかけた。
そう言えば宮城にはエリィのことまだ全然話してなかったな。
「ふん、聞いて驚きなさい! 私の登録者は3万人!こいつの3倍よ!」
そう言ってエリィは俺を指さし、得意げに笑う。
「え!すごい!佑都くんこの前VTuberはもう伸びないって言ってたから、それで3万人取れるのはとてもすごいことなんじゃないの」
「Vは伸びない……? あーまあ確かにそうかもしれないわね。VTuberの勢いそのものは年々上がってきてはいるんだけど、ただ個人で伸ばすのは相当難しいわね」
「宮城、そこらへんのことはエリィが俺より詳しいから教えてもらいな」
「うん!エリィちゃん良かったら教えて」
宮城が目をキラキラ輝かせて言う。
そうするとエリィも宮城のやる気だけは感じたのか、態勢を変えて話しだした。
「これは既に佑都から聞いているとは思うけど、VTuberは企業がそのパイをほとんどかっさらっていって、個人ではもう太刀打ちできないところにまで来ているのよ」
「うん、佑都くんからも企業Vが滅茶苦茶強いってことは聞いた。でもそれって何でなの?」
「うーん、強いてあげるとするならば先行者利益とパッケージ戦略ね」
「先行者利益? パッケージ戦略?」
「もとはといえばVって最初は動画コンテンツを主体に活動していたのよ。HIKAKINのV版みたいな感じでね。んでそれが廃れていく中でVは新たな生存戦略を編み出した」
エリィはスマホを取り出し、とある画面を宮城に見せる。
「それが、ニコ生の生主を片っ端からV化させてYouTubeに流すって戦略よ。これはVTuberという概念を大きく変えた。なにせ主戦場が動画から生放送に移ったからね」
「ということは生放送媒体に移ったことでVTuberは復活したってこと?」
「そうね、そもそも以前までのVは3Dで全身を作っていたからかなりの初期費用が必要だったのね。ただ生放送媒体ではゲーム実況や雑談が主軸となったから自然と3Dモデルの必要性は下がり、それに応じて初期費用が下がった。要するに数撃てるようになったの」
「ふむふむ、初期費用が下がったっていう良いところがあったのは分かった。じゃあ実際生放送主軸に変えてからお金の方はどうなったの?」
「そりゃもううなぎのぼりよ。今まではアドセンスでの広告収益に頼っていたのが今度はそれがユーザーからの投げ銭機能とグッズ収益に変わったからね。これが非常にウケたわ」
「スパチャってやつか!それは私にもわかるかも」
「今でもトップを走っているカベーとエネカラはその先行者利益に乗ってどんどんとVTuberを乱立させた。企業による圧倒的な資金力とウェブマーケティングのセンスで荒稼ぎも良いところって感じにはなったわね」
「そんな感じだったんだ……」
「この前エネカラが上場したときなんかはすごかったわよ。時価総額は一時TCSを超えたらしいわ。一介のできたて企業が民放テレビ局を超えたのよ。まさに事件といっても良いわね」
そう言ってエリィはスマホの画面をYouTubeに切り替え、大手事務所のトップVの配信アーカイブを再生した。
「そして視聴者の需要も企業Vの台頭によって変化していった。自分が見ているVTuberと同様の事務所に所属しているVTuberに需要が集まっていった。更に同じ企業のV同士で頻繁にコラボなどを行うことにより、事務所ぐるみで顧客の囲い込みにも成功した」
「確かに企業V同士の絡みとかはよく見るかも。そう考えると企業のVを見ている人は同じ企業の新VTuberもチェックしやすくなるわね」
「その通り。VTuberは生放送主軸で戦うシステムだから、そもそもファン増加の為には種視聴者が必要。そう考えたときに企業タレントであるというのは非常に有利ということね」
「なるほど……それを逆に言うと個人のVは種視聴者を得るツテが無いからそもそも伸びないし、コラボなどの絡みも無いから自分を知ってもらう機会もない……ってことかな」
「その通りよ。私はたまたま運が良くて登録者3万人まで来ているけど、今から同じことをやっても絶対伸びないわ。それくらい今からVを始めるのは難しいってこと。わかった?」
「うん!めちゃくちゃ分かった!エリィちゃんすごいいっぱい教えてくれてありがとう!」
宮城が満面の笑みでそういうと、エリィは顔を少し赤らめながら言った。
「何よ、オタク特有の早口乙って言いたいわけ?」
「そんなこと言ってないじゃん。本当に感謝してるの。これからも良かったらいっぱい教えてね」
そう言って宮城はエリィの頭を優しくなでる。
「ちょ!子供扱いすんなってーの!」
そう言いながら頭に置かれているその手をどかすことは無かった。
少し照れているようだ。
俺はそれを見て宮城の人たらしの才能に驚きを感じた。
うん、これは確かに落ちるな。
まあでも、どんな筋道でも二人が仲良くなるのはこれからの活動においても得しか無いし、いいことなのかもしれないな。
ただ、俺のそんな淡い期待は一瞬にして破れた。
夜ごはんの後、事件は再び起こったのだった。
「ごめん、ベッド二つしかないんだ」
俺のこの言葉が、戦争の合図だったんだ。
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