第10話「夜通し汗だくセッ〇スするに決まってるじゃない!」と言われました。
「ちょっとあんた! なんなのよこの女!」
そのさされた指の先にいたのは、もちろん宮城だった。
「いやーエリィ、これはな……」
「初めまして!私宮城凪咲って言います!」
「宮城……そう言えばどこかで……ああ、もしかして佑都がずっとかわいいって言ってた子……!」
「バカ、エリィお前何言って……!」
「えー!佑都くん他の人にも私のことかわいいって言ってたの? なんかかわいいんだけど」
「うるさいわ!」
俺らがそう言いあっていると、エリィは何やら宮城に近寄り、彼女の回りをぐるぐる回りながら凝視している。
そして一通り見終わった後、俺に向かって言った。
「なんだ、この女ブスじゃん!」
な!!
こいつ遂にやりやがった。
言われた宮城は笑顔のままだが、その表情の奥には何か熱いものが煮えたぎっているように見えた。
「え、佐々木エリィちゃんっていうのかな? いきなりどうしたの? っていうか初対面でちょっと失礼じゃない? そもそも私そんなブスじゃないと思うんだけど」
「いやブスよ!何故ならわたしより可愛くないから。だからあんたは立派なブス。二度とわたしに反抗的な態度を取らないでよね!分かった?」
「何それ、なんてどギツイ性格してんの。そもそもさっきのぶりっ子性格と全然違うじゃない。配信でかわい子ぶって弱者男性を騙してるって……外面良くても中身ブスじゃん!」
「なんですって……あんた遂にこのわたしを怒らせちゃったわね。いい? わたしは確かに配信の時は性格を変えてるけど、でもそれは求められているからやってんの!視聴者から求められる人物像になって、求められる対話をして夢を見せる。それこそわたしがプライドを持ってやっているVTuberという仕事よ!」
「あーそう、ずいぶん偉そうに言ってくれてるじゃん。でもそういう言葉は少なくとも初対面で人のことをブス呼ばわりする人にはふさわしくないと思うよ!」
ぐぬぬぬぬ!!!
宮城とエリィ、二人とも番犬のように睨み合っている。
ダメだ。このまま放っておいても解決するわけがない。
「おい!お前らいい加減にしろ!」
俺が本日一番の大声を出すと、二人はそれに驚いたのかハッとして言い争いを辞めた。
深呼吸して、俺は今一度口を開いた。
「まずエリィ、もとはというとお前が悪い。初対面でブスとかは失礼だからやめろ」
「……はい」
「そんで宮城、俺ら何のためにここに来たか分かってんのか? エリィに頼みがあってきたんじゃないのか?」
「……そうだった。ごめんね佑都くん」
「なあエリィ、俺たちが今日ここに来た理由なんだけど、お前に一つ頼みごとがあるんだ」
「頼み事?」
そうして俺たちは、これまでのあらましと宮城にイラストを頼みたい旨を伝えた。
エリィはそれを聞いて、ため息をついてゲーミングチェアに座り直した。
「ふーんなるほどね、まあやってあげても良いわよ。あんた毎回わたしの歌みたをMIXしてくれるしね」
「本当か?」
「でもタダじゃやってあげない。何かやってくれないと」
「分かった。俺に出来ることなら何でもするよ。もちろんお金でも大丈夫、何とか用意する」
「お金とかそんなわけ無いでしょ。いい? 今あんた何でもやるって言ったわね」
「おう、何だよ早く言えよ」
エリィは何やら緊張しているようだった。深呼吸して俺を見つめる。
その顔はさっきまでの余裕が無くなり、少し頬を赤く染めていた。
「うん、じゃあ言う」
恥ずかしそうに、そしてまっすぐ俺を見つめてエリィは言った。
「イラスト描いたら、わたしと付き合って」
「は……?」
エリィの衝撃発言に、俺は声が詰まってそれしか言えなかった。
「ちょ……!!!」
宮城が勢いよくエリィに詰め寄る。
「エリィちゃんいきなり何言ってんの!?付き合うってどういうことよ!」
するとエリィが何やら得意げな表情で宮城に言い返した。
「何よあんた、わたしの恋路に文句あるわけ? いい、わたしの方が先に佑都を好きになったの! だからあんたには絶対に佑都はあげない!」
そう言ってエリィは俺の肩にひしっと掴まった。
「佑都はわたしのものよ!」
「な、なにしてんのその手離して!」
「いやですー新参のくせにわたしの佑都を名前で呼びやがって、もうわたし絶対許さないんだから!」
「許す許さないの問題じゃないんですけど!私さっき佑都くんに告白されたんですけど!」
宮城が大声でそう叫ぶ
あーーマジでやめてくれめちゃくちゃ恥ずかしいだろ。なんで告白を大声でばらされなきゃいけないんだ。
それを聞いたエリィはビックリした表情でこっちを見た。
「なっ……佑都ほんと!?」
「……ああ、本当だ」
「じゃあもう二人は付き合ってるってこと!?」
エリィは半泣きでそう叫ぶ。
絶望に打ちひしがれたような表情をしている。
「いや……まだ付き合っては……ないかな」
おい正直だな宮城!
俺がお前の立場だったら嘘でも付き合ってるって言うぞ。
なんでそういうとこは正直なんだ!
するとエリィは死から復活したかの如く立ち上がり、にやりと宮城を見る。
ほら、明らかに面倒くさいことになりそうじゃん。
「へええーそうなんだ。まだ付き合ってないんだ。あ、もしかしてアレ? 登録者10万人行くまで付き合わない的なアレ? なんだそれじゃあんたらに協力しない方がわたし得じゃない!」
勝ち誇った顔でエリィは言う。
お前めちゃくちゃ性格悪いこと言ってるけど大丈夫か?
まあでもこうなってしまったらもうどうしようもないな。
とりあえず今日は帰って、エリィが落ち着いてからもう1回頼みに行くか。
「じゃあ今日は俺ら帰るわ」
「は、いきなり何でよ!」
「いやだって、お前協力してくれないんだろ? だったらここにいても意味無いし」
「いや、まだ協力しないって言ったわけじゃ……」
その時、エリィが何かをふと気づいた様子でこちらを見た。
その表情をどこか深刻な様相を呈している。
「ねえあんたたち、家に帰った後どうするの?」
「いやまあ、宮城はもう家には戻れないから俺の家に泊まることになるな」
俺は当然の如くそう言ったが、自分がそう発言するまでその言葉のおかしさに気づかなかった。あれ、もしかして俺ってこれから宮城と……同棲するってことなのか?
ヤバいなんか急に緊張してきた。
チラッと宮城を見る。彼女もまた俺の言葉を聞いて状況を理解したようだ。
「まあ当分は、佑都くんのお家にお世話になっちゃうかも……」
ぼそっと宮城が言う。
エリィはその言葉を聞いて宮城を指さし激昂した。
「はあ!? あんたたち何言っちゃってんの!! 今のあんたら放置してたら絶対セックスするじゃない!!!」
セセセセセセックス…………!?!?
エリィ今お前なんて言った!
ほら、宮城も突然のパワーワードを聞いて完全に固まっているじゃねえか!
「バカ!!!何言ってんだお前!そんなことするわけ無いだろ!」
「そそそそうです! まだ私たち付き合ってないんだから!」
「ふん!どーだか。今の子の雰囲気なら夜に二人とも発情して夜通し汗だくセックスするに決まってるじゃない!? わたしそんなの絶対許せないんですけど!」
「余計な情報を足すな!いいかエリィ、俺らは決してそんなことはしない!」
「いーや信用できない!! 決めた!今日はあんたん家泊まるわ! あんたらが変なことしないか見張ってやるんだから!」
「なんでそうなるんだ!」
俺がそう言うと、エリィは「いいの? そんなこと言って」みたいな顔で俺を見てくる。
「今日泊めてくれなきゃわたし一生佑都の為にイラスト描かない!」
「なんでそうなるんだ……本当に勘弁してくれ……」
でもこれを了承しないとエリィはもう絶対書いてくれなさそうだな。
こいつのほかにもうイラストを頼めるツテは無いし、ココナラやランサーズで頼むのもどうしてもスピーディな活動はできないし……クオリティが担保できない。
ダメだ。少なくとも1登録者10万人を1年以内に行くならここで妥協を許すわけにはいかない。正直エリィのイラスト技術は才能の塊だ。絶対に逃すわけにはいかない。
それなら……今日のところは致し方ないか。
「……分かった。分かったよエリィ。今日だけ泊めればいいんだろ」
これくらいでエリィの気持ちが落ち着くならやってやるよ。
エリィは顔をパアッと輝かせた後すぐに頬を赤く染めて俯き、その後何かを決心した表情になり最後に俺をまっすぐ見た。
「ふん!当然よ。分かればいいのよ分かれば」
そう言ってPCを消し、早速泊りの準備を始めるエリィ。
相変わらず表情がコロコロ変わるな、こいつは。
俺はゆっくり宮城に近づいて、小さい声で囁いた。
「ごめんな宮城、突然こんなことになって」
「いや大丈夫。イラストは描いてほしいし、何よりさっきは喧嘩しちゃったけど仲直りして友達になりたいし」
「そか、それならいいんだ」
なるほど、宮城は俺が心配するほどエリィのこと嫌っている訳では無いんだな。
個人的には二人は仕事への向き合い方が似ているから気が合うんじゃないかと思ってたから、出来れば今後の仕事仲間としてある程度仲良くなってくれると助かる。
「準備できたわ。早速行きましょう」
こうして俺と宮城は、エリィを連れて家に戻るのだった。
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