登録者3万人の個人Vtuber『佐々木エリィ』編

第9話「なんで佑都くんがVTuberと友達なの?」と言われました。

「よし、じゃあここやってみ」


「うん、分かった」


母親襲来事件から数時間後、俺は宮城の動画編集について軽いテストを行っていた。

偉そうにと言われるかもしれないが、これは宮城がテストしてくれと言ってきたので仕方がない。

そして自分から言ってきただけあって、その完成度は驚くほどのものだった。


「いや、本当よくここまで短時間で出来るようになったな。もう編集技術で言ったらほとんど俺と変わらないレベルだぞ」


そう言うと、宮城は嬉しそうに頭をかいた。


「いやそこまでじゃないよ、でも佑都くんから褒められて嬉しい!」


「あのなあ、俺に褒められるとかじゃなくて10万人いきたいから編集してるんだろ」


「まあそうだけど、褒められたいって気持ちがあってもいいじゃん」


宮城は椅子からググっとのけぞって、後ろにいる俺を見つめる。


「ねえねえ私頑張った?」


「うるせえ」


俺は何とか言葉を振り絞った後、宮城の頭を軽く叩く。

マジでこいつ可愛すぎるな。こんなノリのままやっていたら本当に流されていきそうで怖い。10万人いかなかったら退学どころか宮城と付き合えないのに。


ダメだ。1年後宮城といちゃラブするために、今欲望を開放するのは諦めよう。

まずは動画を1本投稿するところから始めないと。


「よし宮城、そこまで出来るならもう大丈夫だろう。実際に歌みた動画投稿してみるぞ。この前やりたいって言ってた曲あっただろ。ほらなんだっけか」


「フロントメモリー?」


「あーそうそれ、俺も音源聞いてきて既にダウンロードしてあるから、早速DAW起動して録音しちゃおう。その後は俺がMIXするから、お前はMV編集頼むわ」


「うん!分かった。じゃあ早速録音しちゃおう」


そう言って宮城はDAWを起動させる。しかしその手はすぐに止まった。

後ろを振り向き俺を見る。


「ねえ、MV編集って言ってもさ、イラストは?」


「あ」


場が一瞬固まる。


そうだった。

ヤバい完全に忘れていた。俺も宮城もイラスト書けないんだった。

2週間前描かせてみたらとんでもない出来だったから俺がイラストはなんとかするって話で終わったんだった。


あーでも、一応まだ大丈夫か。


「佑都くんもしかしてイラストどうするかまだ決めてない感じ?」


「あーいや、さっきまでそうだったけど今思いついた」


「完全に忘れてたでしょ」


宮城がにやりと笑って俺を見る。


「うっせ、ツテはあるんだから許してくれ」


俺は宮城の追及を半ば強引に吹き切りながら、電話であいつに着信をかけた。


『……』


「うんうん」


『…………』


「ええ今? まあ別にいいけど。じゃあ今から準備してそっち行くわ」


電話を切ると、宮城が不思議そうな顔で聞いてきた。


「誰と電話してたの?」


「イラストを描いてくれる奴。とりあえず今からそいつの家に行くことになったから宮城も準備してくれ。どういうやつかは歩きながら話そう」



「で、誰なの?」


もうすっかり日は傾き、外は夕暮れ模様になっていた。

宮城が1歩後ろをついてきながら、俺にさっきのことを聞く。


「ほらこれ見ろよ」


俺が差し出したスマホに映っていたのはYouTubeチャンネル。


「ええっと佐々木……なんなのこれは」


「俺らがこれから会いに行くやつだよ。イラストレーター兼個人Vの佐々木エリィだ」


「へーそうなんだ!……ってVTuber!?」


「そうだけど」


「なんで佑都くんがVTuberと知り合いなの!?」


宮城が俺に目いっぱい顔を近づけて聞いてくる。

なんか怒ってる? こいつ


「いや前YouTuberのオフ会みたいなのがあってさ、それで知り合ったんだよな。VTuberのそのガワあるだろ。それもあいつが自分で作ったやつらしいぜ」


「え!まじ!?それはめっちゃ凄い!というかよく見たらこのイラスト超かわいいじゃん!ゆめかわってかんじ」


宮城がすぐにスマホに食いつく、さっきまで不機嫌だったのは何だったのか。


「どんな子なのかな、ちょっと生配信のアーカイブ見てみよっと」


そう言って一番最近の雑談枠動画を再生する宮城。


『やほー!今日も世界でいちばんかわいいエリィが地球に来たよー!』


「え、なにこれ地球? どういうこと?」


「そこからか……あのな、VTuberってのはそれぞれ背景設定があるもんなんだ。こいつみたいに宇宙人のやつもいれば魔族のやつもいる。その設定に則って生放送してるってこと」


「なるほどねー、じゃあエリィちゃんの設定って何なの?」


「見れば分かるけどこいつはモケモケ星から来た地球外生命体で、地球に結婚相手を探しに来たという設定だ」


「なるほど、だからさっきから皆に気のある返しをしている訳ね」


「気のある?? どういうことだ?」


「ほら、こういうの」


宮城がアーカイブの途中から俺に画面を見せる。


『えーのぽろんさん赤スパありがとう!!っていうか何かお久しぶりじゃない? 今まで何してたのエリィ寂しかったぴえん。これからまたついてきてね、愛してるー!』


「またこいつは……色恋でスパチャ貰うなって散々言ってんのに……」


まあいいか、それは会ってから言えば。


「それにしてもエリィちゃんってすごい女の子ぽいっていうか、なんかいい意味でぶりっ子っぽいよね!私こういう子好きかも」


「あーそれは……まあそれも会ってから説明すればいいか。ほら着いたぞ」


ウチから歩いて15分程、駅を挟んですぐだが、ここの東口と西口は全然違う。

俺が住んでいる東口は比較的庶民的な一軒家が多いが、西口は再開発が進み高層マンションが増えた。


佐々木エリィが住んでいるのはそんなマンションの高層階だ。


「ほら、入るぞ」


自動ドアを入ってインターホンを押す。


「桜井です」


俺がそう言うとインターホンの向こう側は何も言わず、エントランスの鍵が開いた。

「ったく、さてはあいつ……」


「え、なになに? 佑都くん」


「いや、何でもない早くエレベーター乗ろうぜ」


15階、俺たちは佐々木の表札の前に来ていた。

しかしさっきから呼び鈴を何度も押しているのに出る気配がない。

全くいつもこうだよ。


俺はドアを開けた。


「あれ、鍵かかってないじゃん」


「勝手に入れってことだろ」


そう言って俺の後に宮城がゆっくりと家の中に入ってくる。


「おじゃましまーす……」


俺はそのまま突き進み、玄関とリビングをつなぐ扉を開けた。

そこには絶賛配信中の佐々木エリィの姿があった。


『えーなにこれ全然クリアできなーい!誰か教えてよー』


「おい」


『あ、マサさんなになに、えーそこ通ればいいんだ!!すごい詳しいもっと教えてー』


「おい」


『えーだからそんな彼氏なんていないってー』


「おい!」


3回目。俺が大きい声を出すとエリィがギロリとこっちを向いた。


『みんなごめーん!今すっごい大事な用事が突然できちゃって、だから今日の配信はここまで! ごめんねー』


『いやだから彼氏とかありえないし!エリィそもそも男の人怖いからリアルだと話しかけられないよー!じゃあごめんねみんな、また明日―!』


エリィがOBSの配信終了ボタンを押す。

PCをスリープモードにした後、もう一度ギロリと俺たちを睨む。

そしてゲーミングチェアから雑に離れ、ズカズカと俺の目の前で指をさす。


今はこんな関係だが、初対面で彼女を見た時に俺は驚いたんだ。

腰まで伸びるサラっと綺麗なブロンドの髪に透き通るような蒼い眼。幼く見えるも非常に整った顔立ち。白いワンピースが彼女の魅力をより引き出していた。


まさに絶世の美少女だ。


そう、こいつが言葉を発するまでは。

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