第4話「佑都くんち、明日からも行っていい?」と言われました。
そう、宮城の歌はまさに完璧そのものだった。
売れない歌い手によくある例として、技術はすごいがそれだけのパターンがある。歌が上手いだけでは聴く人のニーズを満足させてあげることが出来ず埋もれていくのだ。
ではどういう歌い手が売れるのか。それは間違いなく声質にある。結局は生まれ持ったものなのか?答えはそう、生まれ持ったものなのだ。視聴者は可愛い声やカッコいい声など、声質による違いで好き嫌いを決める傾向がある。
才能を持っているやつが努力して初めて生業になるのが歌い手。
天は残酷だが、容姿というギフトを貰っている宮城にまたもやギフトを与えたのである。
宮城の声は、かわいらしいがベースにあるが本質は透き通っている感じだ。しかしそれと同時に一種の切なさのようなものも混じっている。そんな声。
YouTubeを初めて1年そこらだが、それでも実感できることがある。
宮城は、やりようによっては絶対に売れる。
「宮城、顔出しに関しては、ある程度はできるか?」
「まあ少しなら…完全に顔出しするのはちょっと嫌だけど…」
「いや、それでいい。というかその方が良い」
「何か思いついたの?」
「うん、俺がおススメしたいのは顔出し無しの歌い手だ。と言っても動画で目元だけは映したり、インスタで少し表情が分かるような感じでは出すんだけどね」
そう言って俺はPCでYouTubeを開く。
「この人とかそんな感じ。流行りのボカロ曲だったりをカバーしつつ、たまに顔の雰囲気だけ分かるような、でも完全には分からないようなMVを出す」
そして生放送のページに飛ぶ。
「歌い手であると同時にVTuberの一面も持たせる。ゲームなどの生放送を行ってファンと触れあいながらチャンネル登録者を増やしていくって感じかな」
「なるほど、歌い手の方は分かった。でも生放送の方はどうなの?さっき言ったようにVTuberでは企業勢に勝てないんじゃなかったの?」
「そう、勝てない。だからこそVではないことが大事なんだ。歌い手活動の中でのファンサービスという立ち位置でやれば、競合は競合では無くなる。目新しさからVを敬遠していた層も見てもらえる可能性がある」
あれ、なんで俺こんな熱く語っちゃってるんだ。
「だからどうだ? まず最初に始めるチャンネルはこういうコンセプトでやってみないか?」
何でやるかなんて自由だろ。
確かに自由だ。でも、あの才能は埋もれさせちゃいけないようなものだと思う。
あとは、ほんの少しだけ、もっと宮城と一緒にやりたいと思ったから。
俺は思ったより語りすぎてしまったらしい。
宮城もあまりの勢いにビックリしている。
「ごめん、俺もしかして押し付けて……」
「そんなことない!」
その瞬間、俺の手を今度は本当に強く、宮城が握りしめた。
「私、やってみる!これで有名なYouTuberになってみる!!!」
宮城の目には、決意がこもっていた。
YouTuberは意外とみんながひそかに憧れてたりするものだ。傍から見たら遊んで金儲けしてるように見えるし、プロレベルの才能を持っていなくても有名になれるから始めるハードルは低い。
じゃあ何でみんながYouTuberを生業にすることが出来ないのか。その答えは簡単で、言い訳を付けて行動しないからだ。編集が大変だとか、どんな動画を上げていいのか分からないとか、自信を持てないとか。
そういう理由でやらなかった人間、やってもすぐ諦めた人間を何人も見てきた。
ただ今回は、分からないけどそういう風にはならない気がする。
宮城の目は、覚悟を決めた目に俺は見えたからだ。
「はい、じゃあこれ」
そう言って俺が宮城に渡したのはサブノートPC。
「これ……パソコンだよね。いいの、貸してもらっちゃって」
「おう、だって動画編集したりするのにある程度の脳みそ入ったPC必要だろ。最終的にMVも自分で作って貰う予定だし。だからいいよ。貸してやる」
「ありがとう……私頑張る!」
「あと、俺明日までに動画編集のマニュアルと課題作っておくから、それもやっておけよ」
「了解であります!隊長」
「なんだそれ。じゃあしばらくはUSBの渡しあいってことで。分からないところがあったらメモに書いてそれも添付しておいてくれ」
俺がそう言うと、宮城が首をかしげて聞いてきた。
「あれ、何で?」
「何でって、お互いPCで作業できる場所がない……」
「佑都くんち、明日からも行っていい?」
え
「いやいやいや、今日のは事故みたいなもんで、女の子が一人で男の家なんかに……」
「ダメ?」
宮城が、子犬みたいな表情で聞いてくる。
そんなこと言われたら、もう了承するしかなくなるだろうが。
「……分かりました」
こうして、宮城は毎日俺の家に来て課題をやるということになった。
好きな子が毎日家に来て、二人きりで毎日話す。
俺はそんな夢物語みたいな展開に、大きな緊張と少しの嬉しさを感じたのだった。
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