第3話「私ってどんなジャンルが向いていると思う?」と言われました。
「まずYouTuberってのは、大きく以下の4種類に分けられる」
「ほうほう」
宮城が俺の家にいる。状況としてはかなり狂っていると言ってもいいだろう。何故ファミレスであんなことを言ってしまったのか。
この誘いをしてしまったことで嫌われなければいいが……もちろん変なことをするつもりは毛頭無いので、とりあえず宮城の目的が果たせるように頑張ろう。
「まず王道エンタメYouTuber、これはHIKAKINとかはじめしゃちょーとかがそうかな。宮城が好きなみいこさんも、どっちかといえばこの分類に入ると思う」
「みいこさんと同じか、へへ、それ結構良い感じだね」
「うーんでもみいこさんに関しては次の分類にも被ってるんだよね。2つ目は実用系YouTuber。これは恋愛、金融、ライフハックなど日常の問題点を解決するために見るYouTuberだね、YouTubeそのものの収益性が認知されてからは非常に多くなっているチャンネル形態だな」
「確かに今は結構専門的なチャンネルいっぱいあるもんね」
「そう、そもそもYouTubeの特性上ジャンルを統一した方が伸びるようになってるんだけどね。だからこの形態はエンタメ系よりは伸びやすいと思う」
「なるほどね。みいこさんのチャンネルはどんな感じなの?」
「彼女のチャンネルはある程度自分のタレント性を売りに出しつつも、情報やノウハウの提供というのを前に出している。つまり両取りだね。かなり頭のいいYouTube戦略だと思うよ」
「みいこさんも色々考えてやってるんだね」
「3つ目がVTuber。新参と思われがちだけど、もう確実に市民権を得ているから分けさせてもらったよ。これもエンタメ系と同じようにタレント性で売るタイプだけど、出演が本人では無くモーションキャプチャーを使用したバーチャルアバターであることかな」
「なんかカタカナがいっぱいでてきて分かんなくなるね」
「ああそっか、ごめん。でもまあ宮城にはこのVTuberを勧めることはしないから話半分に聞いておいて」
「あれそうなの?」
「伸びやすさで言ったらもちろん一番伸びやすいんだけど、そもそも初期投資にお金がかかるし、何よりもう個人で伸ばすのは無理ゲーもいいとこだからね」
「そうなんだ。確かに企業ぐるみで戦場に来られたら個人では太刀打ちできなそうね」
「うん。だから残念だけどここはパスで。ということで最後は俺が今やっている合成音声系のチャンネル。これはゆっくりとかボイスロイドなどの合成音声を使用してゲーム実況や解説。2chまとめやアニメの反応集とかを作ることが出来るんだ」
「あー私よく見るかもワンピの反応集とか。あれも合成音声なんだ」
「そうそう。最近はプロ野球のまとめが流行っているけどね。まあここに関しても宮城がやるようなもんじゃ無いから大丈夫でしょ」
「何でこれもやらないの?」
「いやだって宮城は自分を売り出した方が良いでしょ。俺は別にイケメンじゃ無いからゆっくり解説やってるだけ」
「へーじゃあ佑都くんは私のことかわいいって思ってるってこと?」
また宮城がにやりと笑った。そうやってすぐからかう系なんなお前。初めて知ったわ。
だが俺もあんまりナメられると良くないのは分かる。
『なんかお兄ちゃんみたいで恋愛対象として見られなくなる』
らしいからな。
「別にそうは言ってないけどな」
「ふーん、つまんないの。じゃあ……」
そう言って宮城は俺の手をぎゅっと握ってきた。
え……ちょっとまってくれ。ああだめだ宮城の手あったか。
「顔」
宮城が自分のリュックから鏡を出してきて、俺に見せてきた。
そこにはゆでだこのように真っ赤になってしまっている情けない俺の顔が写っていた。
「ぷつ……ははは。やっぱ佑都くん面白いね」
「うるせ、このやろ」
ダメだ。あまりにちょろ過ぎてこれくらいしか言えない。
またしても宮城にいいようにからかわれてしまった。
「ほら怒んないで。でもありがとうね。一通り説明してくれて」
よしよしと、宮城は俺の頭を撫でる。
気にすんな……気にすんな。これはあくまでも友達としてのよくあるコミュニケーションだ……決してそういう意味じゃない……だよな。
「ああうん、それは全然いいんだ」
俺は全く効いていないふりをして平然と返す。
「でもそうかー、YouTubeっていろんなジャンルがあるんだね。じゃあさ、私ってどんなジャンルが向いていると思う?」
「うーん確かに人によってジャンル適性とかはあるからなー。分かった。じゃあとりあえず1個ずつやってみるってのはどうだ?ほらあるだろ。ロープレってやつ」
「え!それめっちゃ面白そう!やってみる」
じゃあ、と俺はエンタメ系YouTuberっぽい台本を一瞬で書いて宮城に渡した。
「まずはエンタメ系からやるぞ。注意すべきはまずリアクション。考える3倍はオーバーに行け。いいな」
「分かりました隊長。それでは」
「はい、じゃあよーいスタート」
「ブ、ブンブンハローようつべ!はい今日はですねーあのえっとこの、なんていうんですかこれ、ええっとですね」
「はいカット」
「どうだった??」
目をキラキラさせて聞いてくる宮城
「え、逆にこれグッドテイクだと思った!?どうした急になんかロボットみたいになってたけど」
「ど、ロボットって女の子に向かってその言い方はないでしょ!というか私極度の緊張しいだから恥ずかしいの!!」
ええそれってYouTuberとして終わってるんじゃ…
「でも普段は普通に話せてるじゃん」
「いやそれはカメラ無いからでしょ。私その、カメラで撮られてるとなんか恥ずかしくなっちゃって、どうしても言葉とかたどたどしくなっちゃうの!」
いやいやまあこれはまずいんじゃないか。純粋にYouTuber向いてない気がしてきたぞ
……いやここで向いてないで一蹴するのは簡単だな。俺と宮城のつながりはここだけ。もし宮城がYouTubeに興味が無くなったらこの関係も一瞬で終わる。
ならどうする。考えろ俺……
「ちなみに宮城ってさ、なんか趣味とかってあんの?」
「いきなり何?もしかしてデート誘おうしてんの?」
また宮城がニヤニヤしている。いや今回はそういうことじゃなくて
「普通に宮城が何に興味があって、どんなことをしているときに集中できるのか知りたいだけ。好きで熱中できるものならカメラ気にならないかもしれないだろ」
「なるほどね、そっか真剣に聴いてたのか。ごめん茶化して」
宮城が急にしゅんとする。いや結局いい子なんかい。そういうとこ好きだけど。
「あーいや全然かまわないよ。俺に気遣う必要ないし。それよりなんか見つかった?自分がこれなら熱中できるってこと」
「うーんそうだなあ……あ、私歌とか好きだよ。カラオケとか一人でもよく行くし、たまに自分の部屋でも歌っちゃったりしてる」
へーそうなんか、それはまた可愛いな。
歌か。あ、それならいい方法思いついた。
俺はクローゼットの奥からアコースティックギターを取り出した。
弦大丈夫かな、うん。まあこの場だけなら何とかなりそう。
「俺がアコギで伴奏引くから、宮城一回歌ってみてくれよ」
「あれ、佑都くんギター弾けるの?」
「いや上手くは無いけど簡単なコード弾き暗いなら出来るよ。チェリー知ってる?スピッツの」
「うん、チェリーなら歌えるよ」
「じゃあそれでやってみよう。じゃあカメラオンにするぞ」
「ううう、やっぱりカメラあると緊張するな……」
「できるだけ歌に集中しろよな、それじゃ行くぞ」
そうして俺はコードを弾き始める。そして宮城も歌い始める。
Aメロ、Bメロ、サビと。そして2番に差し掛かったころ、俺はギターを置いた。
「あれ佑都君どうしたの?もしかして私またダメだった? やっぱりカメラあると緊張してダメになっちゃうのかなー。そこから直していかないと……」
「いや」
おれはそう言って宮城の言葉を遮った。
「うん?どうしたの?」
「完璧だ。宮城、お前は歌い手系YouTuberになるべきだ」
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