第2話「えっち」と言われました。
「桜井何がいい?あ、っていうか佑都くんって呼んでもいい?」
「あーうん。全然いいけど」
今俺と宮城は近場のファミレスに来ている。
俺としては女の子と二人でファミレスに行くことは夢の一つでもあったから嬉しいことは間違いないんだが、どうにも次の展開が気になって純粋に楽しめない。
宮城がYouTuberになりたいってどういうことなんだ?
というかさっきから周りの目線がすごいな。学生街のファミレスだから同じ年齢層が多いのかもしれないが、それにしてもやたらと注目を感じる。
そうか、宮城がいるからか。そらそうよな。目見張るほど可愛いもんな。
現に周りからそれっぽい言葉が聞こえる。
『なんだあの子めっちゃ可愛くね?』
『ガチでナンパしてみよっかな』
『隣にいるのあれ彼氏?』
『いやそんなわけないって、なんだろ、パパ活?』
いやせめてそこはモテなさそうくらいで止めておいてよ。パパ活には流石に見えないだろ、俺17歳だぞ。
俺がそんな周りの言葉を気にしすぎていたのか、目の前から俺を呼ぶ声に気づかなかった。
「佑都くん!聞いてる?」
「あ、ああごめん。なんだっけ?」
「いやね、どうやったらYouTuberになれるの?」
「うーん……なんか概念的だなあ」
というより、俺にはちょっと気になることがある。
「その、宮城は何でYouTuberになりたいと思ったの?」
「あ、そっかごめん。そういうことまず話してからだよね」
すると宮城は俺にスマホの画面を見せてきた。
女の子のリアルなスマホ画面、初めてみた。なんかスマホまでかわいいんだな。
「これ、私の好きなYouTuber、みいこさんっていうんだけど知ってる?」
「あーうん、ファッションだったり恋愛だったり、日常の疑問や問題をゆるっと話していく感じのYouTuberだよね。一応職業病だから、ある程度は分かるよ」
「そうそう!でね私、去年少し学校休んでた時期があったんだけど、そのときすっごい落ち込んでて……でもみいこさんの動画に出会って、少し元気になったんだ」
「あともう一つ……私がどうしても好きな動画があったんだけど、まあそれに関しては秘密で……」
そう言った宮城はどこか恥ずかしそうだった。俺の顔を見て、そしてすぐに逸らす。
「それで今私は元気に学校来れてるんだけど、よくよく考えたら人の気持ちをこうやって動かせるって実はすごいことなんじゃ無いかって思って」
「だからかな。私もYouTuberになりたいって思ったの」
「……なるほど」
宮城が何でYouTubeに興味を示しているのかは分かった。というか宮城って1年の時や住んでたんだな。それすら知らなかった俺って、まあそこらへん今はいいか。
「それでね、YouTuberになりたくて色々調べてはみたんだけど、どうにも私いままでパソコンとか使ったことなかったから分からなくて……」
そりゃそうよな。PC苦手な人にYouTubeの動画上げてみろっていうのは無理な話だ。
「分からなくて途方に暮れてたら、そう言えばウチのクラスにYouTuberの人がいるって聞いて、しかも登録者凄いことになってるって噂聞いて、だから今日こうやって佑都くんに話しかけてみたんだ。私だって少しは緊張したんだよ」
「そうだったんだ……なるほどね」
いやそもそも何で俺がYouTubeやってるのバレてるんだ?
俺はそもそも澤村にしかカミングアウトしていないはずだが
「いやーほんとに教えてくれた澤村くんには感謝しかないよ」
やっぱりあいつの仕業かい!
まあいいわ。あいつのバラしのおかげで今役得な展開になっている訳だし、今日のところは許してやろう。
「佑都くんって結構長くやってるんでしょ?登録者とか凄いもんね」
「うーんまあ1年くらいかな。本気でやってる人の中だと1万人は結構遅い方だと思うよ」
「そうなの?私よく分からないけど、でも登録者1万人いるってことは、何かしら伸びるコツとかは掴んでるわけだよね」
「まあそれなりには、でも俺のチャンネルってゆっくり解説だぞ。」
「うんうん知ってる。だって佑都くんのチャンネルってこれでしょ!」
は?
なんでチャンネルまで知ってんだ宮城。まさか澤村のヤロウ宮城にそこまで教えちゃったのか?
あいつもなんとか話のタネにしたかったんだろうが、畜生あいつ覚えてろ。
「ほら見てここ面白い。ロスチャイルド家とイルミナティの関係性とか、この決め台詞の『いい加減気づけよニッポンジン』とか、めっちゃ面白いね!」
うわあああマジでやめてくれ俺の都市伝説系ゆっくり解説チャンネルの動画内容を朗読しないでくれ、死ぬほど恥ずかしいから。
「分かった分かった。見てくれたみたいでありがとう。だからもうこの話題はナシで……」
「ええー何でよ。あ、もしかして佑都くん恥ずかしいの?」
宮城はにやりと笑って、俺の顔を覗き込んでくる
「まあ恥ずかしいのもあるし、単純にお目汚しになってんじゃないかなと」
「何でそんなこと言うのさ、まあ私は確かにこのゆっくり解説っていうの?でYouTubeやるのは難しそうだし、都市伝説も勉強不足でよく分からないけど、でもそれでも佑都くんが魂込めて動画を1本1本作ってる。これだけは分かるよ」
「だからもう少し自分に自信持ちなよ」
そう言って宮城は俺の頭を撫でてきた。
いやいやちょっと待ってくれ。なんなんだこの子は。普通に頭撫でるとかする子なのか?
マジで勘違いするぞこのままだと。
でも頑張りを認めてくれるのは、やっぱり嬉しいものだ。
そのまま撫でてもらってたら、すぐ近くで咳払いが聞こえた。
振り向くとそこには作り笑い全開の店員さんの姿があった。
「お待たせしました。こちら山盛りポテトフライと、唐辛子香るペンネアラビアータでございます」
テーブルに料理が置かれる。宮城はパッと俺の頭から手を離した。
やばいめっちゃ恥ずかしい。
そう思って宮城の方を見たら、彼女もまた顔を真っ赤にさせていた。
「ごゆっくりどうぞー」
店員が去った後、宮城は顔を赤らめながら話し始めた。
「ごめんね佑都くん突然」
「あ、ああ全然いいんだ。うん」
やばいなんか雰囲気固まってしまった。
何か新しい話題を出さないと。うーん、新しい話題……
「あ、宮城は何系のYouTuberになりたいんだ?」
「あーうん、そうか!!そうだよね」
「あれ、決まってないのか?」
俺がそう言うと、宮城はまたバツが悪そうに言った。
「ごめん、何が自分に合っているのかまだ分からなくて」
「あーなるほどね、そかそか」
まあでもこれは傾向としては良いかもしれない。変にこれ一本で行く!と息巻いてみてもいざやってみたら違うってなってそのままあきらめる人が大勢。
本気でやるならまずはYouTuberの種類を知ることも大切だ。
「じゃあさ、もし良かったらなんだけど」
「うん、なになに?」
「ウチにパソコンあるし、YouTuberのジャンルとか説明するから来るか?」
「それって、私が佑都くんの家に行くってこと?」
「あーうん、そういうこと」
「でもご家族様とかに迷惑じゃないかな?」
「あーそれは大丈夫、俺上京してきて一人暮らしだから」
俺がそう言うと、宮城は何やらぽけーっとしたあと、にやりと悪戯な顔をした。
「佑都くんさ、私を家に連れ込もうとしてるってこと分かってる?」
ん?それってどういうことだ?
今までの会話を思い出す。そして
あれ、確かに俺宮城を家に誘ってる……
まって俺もしかしてとんでもないことを言ってしまったのでは?
「へえー。佑都くんは、私を、一人暮らしの密室に連れ込んで、何をしたいのかな?」
「いやごめん、さっきのは何の気なしで…」
そう言いかけたら、宮城は手で俺の口を塞いで
「えっち」
その瞬間、そのときだけ時間が止まったみたいな感覚になった。
ゆっくり、ゆっくり宮城は席に戻って
「いいよ。じゃあ食べ終わったら佑都くんの家行こっか!」
その後食べたポテトフライは、何の味もしなかった。
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