1年以内に学園一の美少女を登録者10万人のYouTuberにすれば付き合えるが、失敗したら退学になるようです。

学園一の美少女『宮城凪咲』編

第1話「私をYouTuberにして」と言われました。

「佑都くんは私のこと好きなの?」


「うん、好き」


「私と付き合いたいの?」


「ああ、目標達成したら付き合いたい」


「そっか、じゃあ……」


宮城は俺にぎゅっと抱き着き、耳元で小さくこう囁いた。


「私を登録者10万人のYouTuberにして」



4月、慌ただしく新生活が始まる季節。

昼休みの教室。高校2年になっても、俺の人生は何一つ変わりはしない。


「おーい佑都、お前ぼーっとしてどうしたんだよ?」


俺の目の前に来た澤村が視線の先を見て、ははーんと笑う


「お前もアレか?宮城さんが気になってるのか」


「うるせー。そんなことねーって」


「じゃあ何でそんなに真剣な目で彼女を見つめてたんだい?おう?」


「死ね」


まあ実際、彼女が気になって見つめていたことだけは事実だ。

宮城凪咲。今年から同じクラスになった彼女に俺は一目惚れした。


聞いた話だと随分なお嬢様らしいが、そんなそぶりは一切ない。ウルフボブカットのサラっとした黒髪に、快活で元気なイメージを受ける端正な顔立ち。

よく笑いよく話し、4月も始まったばかりだがもうクラスの中心人物になっている。


「まあそりゃモテるよな」


そう俺がボソっとつぶやくと、澤村はにやにやしながら口を開いた。


「そういえば、宮城さんここんとこ毎日告白されてるらしい。放課後中庭の端っこでな。それも俺らみたいなクソ陰キャだけじゃなくて、サッカー部のいけすかねえ加賀見とか、バスケ部の斎藤先輩とか、まあそれも全部断ってるらしいけど」


「へえそうなんだ。で澤村、お前の言いたいことは何なんだ?」


「いや、そんな陽の塊みたいなやつらがフラれてんだから佑都なんか尚更無理だろって思ってな」


「うるっせ、そんなこと言われなくても分かってんだよ」


そう、俺は無理だ。別にそもそも付き合えるとかなんて微塵にも思ってない。

ただ宮城凪咲の楽しそうに笑ってる顔を見るだけで十分なんだ。


予鈴がなる。ああもう宮城を見る時間が終わってしまったのか。


「まあということで、頑張れよ佑都」


澤村は俺を茶化しながら急いで教室を出て向かいのクラスに戻っていった。

宮城は自分の席に戻るため、俺の席を通り過ぎる。

ああ、いつもこのとき柔軟剤のいい匂いがするのが好きなんだよな。一瞬で消えちゃうけど。


そう思いながら次の授業の準備をしていた。しかしおかしい。どうも今日は宮城の匂いが長く持続している。

そうか俺は遂に好きすぎて宮城の匂いを覚えてしまっていたのか。相変わらずキモいな。


ふと横を見る。


俺の前に宮城が立っていた。

笑顔で。


「桜井さあ」


そう言って宮城は俺の耳元でこう囁いた。


「今日の放課後、中庭来てくんない?」


ええちょっと待って、どういうこと?

しかもさっき俺の耳元で……宮城の声


「どうかな?」


ダメだ。突然のことすぎて言葉が出ない。

しかしそんなこと言っている場合じゃないことに気づいた。ガラガラとドアを開ける音、先生が教室に入ってきた。授業が始まる。

なんとか絞り出さなきゃダメだ。


「ええっと、おう。分かった」


バカ、何だ今の返答。陰キャ丸出しじゃねえか。

半分以上感嘆詞だし、せっかくチャンスかもしれないのに。


「まじ、じゃあ放課後よろしくね?」


そう言って宮城は自席に戻っていった。


その後俺は放課後になるまで、思考が爆発しただ呆けていることしか出来なかった。



放課後


宮城に言われたとおりに、俺は中庭に来ていた。

しっかしここ、放課後になるとこうもおかしくなるんだな。

中庭は普段は体育館や家庭科室などと教室をつなぐ連絡通路のような役割を担っているが、こと放課後になると学生カップルの巣窟になる。


どこもかしこもイチャイチャしやがって。目の前のベンチの奴らなんてエグいキスしてんじゃねえか。恥ずかしくないのかよ。


いやいや今日はそんなことを考えている場合じゃ無かった。とりあえずこの中から宮城を探さなければ。


そうしてあたりを見回していると、近くから声が聞こえた。


「宮城さん…俺と付き合ってください!」


そこにいたのは宮城と……どうやらバレー部の部長か。あれは。

というか宮城が告白されるとこ見てしまったんだが、これは大丈夫なのか。


今まで散々モテているという情報は聞いていたが、いざ告白されているところを見ると、やはり胸がきゅっと締まる。


頼む……頼むから断ってくれ。

最悪の祈りをした。しかしそれはすぐ叶うことになる。


「ごめんなさい。私恋愛とかよくわからなくて」


宮城は断った。


その後も部長は何回か粘って友達からとかよくわからん交渉をしていたが、結局ビタ一文変わることが無いと察したからか、諦めて帰っていった。


すると宮城は俺を見つけたのか、こっちこっちと手を振ってきた。

その顔はすごい笑顔で、明るく見えた。


俺は宮城のところまで早歩きしながら、こんなことを考えてしまっていた。

もしかして宮城って俺のことが好きだから今まで告白を断ってきたんじゃないか。

だってそうじゃないと今日のことは説明がつかない。


宮城の方から突然中庭に呼び出しって……もしかして俺は今から、告白をされるんじゃないのか。あの宮城から。


そう考えると鼓動が止まらなくなった。ヤバいこれ、こんな風に思っているのがバレたら、俺は恥ずかしすぎて死んでしまう。


「お、お待たせ。宮城」


「いやいや全然だよ!こっちこそごめんね待たしちゃって」


「いやー全然大丈夫、だって、さ。告白されてたでしょ?」


「あーそうそう、困っちゃうよねー突然来るんだもん」


宮城は笑いながらそう言う。きっとこういう経験は何度もあるのだろう。


「私恋愛するならちゃんと好きになった人としたいし。なんかなあなあで流されるのはちょっと嫌かな。さっきの先輩には申し訳ないけどね」

「そうだよな。うん、そうだな」


もしかしてちゃんと好きになった人って俺なのか、もしかして俺だったりするのか?


「あーそうそう、今日突然呼び出しちゃった件なんだけど」


ヤバい遂に来てしまうのか。どう返答しよう。いやそんなの付き合うに決まってるんだけど、でもどうせならカッコよく言いたい。


宮城が口を開く。

来る。告白される。

俺にできることはそう、気持ちを伝えた彼女に出来るだけ早くOKの返事をして、安心してもらうことだ。よし来い!




「私をYouTuberにしてください!」

「はい!これからよろしくお願いします!」


……へ?


「え!そんな即答でOKしてくれるの?やったー!!ありがとう桜井!」


今宮城はなんて言った?

告白じゃなくて、なに、YouTube??

私をYouTuberにしてくださいって、そう言ったのか?


「じゃー早速会議しよっか!どこ行く?ファミレスで良いよね。それじゃあいこっか」


そう言って一人でスタスタ歩き始めた宮城。

俺は状況が飲めず、ずっと固まったままだった。


ただこれが俺にとって大きな波乱の始まりになることを、当時は知る由もない。

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