第3話 文字の力だ、讃岐うどん。

 うちの相方は、「へも会」というものをやっている。

 熱狂的な讃岐うどん旋風を起こしたあの『麺通団』に憧れて立ち上げた……とかいう、数名の飯友の集まりである。入会規則はたった一つ、うどんが好きな事。

 私は珍しく活動的になった彼をニコニコと眺めていたが……なんか、彼の引き出しはそろそろ限界のようである。うん、麺通団は食べるだけの集団じゃないからね。


 いまでこそ全国区になった讃岐うどんは、香川のうどんを愛する酔狂な編集者が火をつけた。まるで○○探検隊みたいにうどん屋を紹介し、その文章に人々が食いついたのだ。その文章を書き、出版していたのが麺通団の面々である。

 火は大きくなって東京に飛び火し、『UDON』という映画まで作られた。主人公はなんとユースケ・サンタマリア。普通に面白いからおススメ。


 で。悩んでいる相方に関係なく、私の中でずっとくすぶっている夢がある。

 香川を舞台にした小説を書いて、それを映画にしたいと思っているのだ。

 私の中で、勝手に『UDON2』と名付けている。


 とはいえ、UDON2構想は何のストーリーも浮かんでいない。

 その前に、私がうどんにまつわる物語を知らねばならないのだ。


 麺通団が書いたコラム『おそるべき讃岐うどん』は、SNSもない時代に多くの世代を巻き込んだ。そこにはうどんを食べたい人間の高揚や、期待感で美化される風景が上手い具合に書かれてあった(映画で見ただけだけど)。写真もない、文字だけの記事。雑誌の出版を待ちのぞみ、文章で唾液を飲み込み、店に走る読者。

 ――時代が違うのは承知で言う。

 文字ってすげえ!文章ってすげえ!言語表現ってマジ最高!!

 私が目指すのは、映像の前に言葉の力だ!!


 超讃岐うどん好きの友達が、こだわっていることがある。

「この人は純粋にうどんが好きなのか?

 讃岐うどんを利用して有名になりたいのか?」

 ごめん、私はあなた基準では純粋じゃない。店主の物語を書きたいと思っている、客の物語を書きたいと思っている、その周りの環境も取材して書いてみたいと思っている。だからお店に通ってこっそり周囲を観察している。

 讃岐うどんをテーマに書いた小説は、いまのところ1作品のみ。(短編小説『値段』をご覧ください)あの時の閃きもすごかったけど、私はもっと讃岐うどんのすべてを知りたい。


 だから今日も、讃岐うどんを食べている。うむ、美味かった。

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