第30話 姉はお見通し

 それから世間の同情が集まってきている話をし、


「グループに復帰するかは置いといて、芸能界には戻れそうやね」


「せやね。ホンマありがとう」


「いやいや、お礼を言われることはなんにも……」


 調子が狂う。


 怒られる前提で電話に出てるんだから。


 感謝ばっかりされると、ね。


「記事読んだけど、あの子……自分でストーカーおびき寄せたんちゃうの?」


「えっ、なんでわかったん」


 シンプルに驚き。


「そりゃな。愛衣がやりそうなことやもん」


「おーん」


 返答に困る。


 ありのままを話せば愛衣が再びキレられそうだし。


 まさか、悲劇の――


「あの子、悲劇のヒロインになりたかったんやろ?」


 お見通しでした!


 隠そうか話そうか。迷った時間は無駄でした!


「なんでわかるん」


「そりゃな。妹やもん」


 ため息をついてしまう。


「めぐっちには敵わへんわ」


「褒め言葉として受け取っとくわ」


 ポジティブシンキング。


 そういうところ見習いたい。


 切実に。


「あの子の今の立ち位置はどん底。ほったら、あとは這い上がるだけやろ。これ以上落ちようがないんやし」


「せやね」


 チラリと愛衣を見れば、ニッコリ。


 ブチギレられた後に笑っていられる神経が羨ましい。


 姉妹揃ってメンタルどうなってるの。


「まっ、これから事務所がどういう反応をするのか。愛衣はグループを辞めるのか、まだなんにも決まっとらんし。もうちょいひろっちにお世話になりますわ」


 私が想定していたよりも冷静に会話をしてくれためぐっちは、話をそう締めくくり、


「……切られた」


 一方的に。


「お姉さまも自由奔放やね」


「アンタが言うか」


 呆れをにじませながら言えば、


「もう少しお世話になります」


 ペコリと頭を下げられた。


「おん。よろしく」


 愛衣の問題が完全に解決するまで、私たちは共同生活を続けることになりそうだ。


 割と嬉しい。


 と思ってしまうのは、何故なんでしょうねえ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る