第25話 事件発生
「こんなこともあろうか……と」
運転しながらスマホをいじる。
よい子は絶対にマネしないでね。
警察さん、今は見逃してね。
通話状態のまま、
「うっし」
GPSで愛衣の居場所を特定。
車より遅いスピードとはいえ移動しているところを見ると、必死にストーカーから逃げているのだろう。
え、いつの間にGPSのアプリを入れたのかって?
大丈夫。
これ、お互いの居場所がわかるようにって、あの子が言い出して勝手にインストールしたやつだから。
まるで恋人みたいだけど。
そんなつもりでインストールしたんじゃない。
少なくともあの子は。
私は……。
「愛衣っ、もうすぐ着くから!」
「来ないで!」
今のは間違いなく、私にではなくストーカーに対しての言葉。
ヤバイな。
彼女が追い付かれるのが先か、私が着くのが先か。
はたまた警察か。
こんなレースしたくなかったよ。
全然車が走っていないのをいいことに、信号無視。
ドラレコ確認されたら警察に怒られっかな。
別にいいよ。
愛衣のためなんだから。
「あっ」
位置情報を頼りに先回りした大通りに面した路地から愛衣が飛び出し、
「ちょっ」
ズッコケた。
慌ててブレーキを踏み、車から降りて駆け寄る。
「愛衣ちゃん!」
「あははっ、こけちゃった」
「そんなんええから、早う車に――」
顔を上げた瞬間。
ポツンと外灯が一つだけある路地からにゅっと現れた前進黒の人物。
マスクで口元を覆った人物と目が合った。
身長は多分190cmぐらいのガッチリとした体形。
威圧感が半端ない。
「……」
言葉が出てこない。
動けもしない。
手元に持った刃物が視界の端に映った。
「めっ、愛衣。あんたは車に乗って!」
頑張って紡ぎ出した言葉。
彼女を無理矢理立たせるけれど、私の背後に隠れたまま動こうとしない。
いや、動けないが正しいのか。
このままだと二人とも刺されて終わる。
そんなの嫌だ。
私はどうなってもいい。
だけど、愛衣だけは守らなくっちゃ。
この子だけは失っちゃいけない。
そんなことを考えている間に、ストーカーは距離を詰めてくる。
「愛衣っ」
いつの間にか呼び捨てになっていることに気づかず、彼女に覆いかぶさる。
必然的に二人ともしゃがむことになる。
神様。
どうか愛衣を助けてください。
やっと自由になれる翼を手に入れたんです。
もう少し生きさせてやってください。
本当は神様なんて信じてない。
でも、今日だけは。
今だけは。
神様にすがるしかない。
周囲から音が消える。
彼女の鼓動と私の鼓動が混ざり合う。
無言で私の胸に抱かれる愛衣をギュッと抱きしめたとき、
「大丈夫ですか!」
顔を上げる。
そこには、ストーカーを取り押さえながら私たちに声をかけた警察官の姿があった。
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