第26話 変わらない笑顔
間一髪としか言いようがない。
警察から事情を聞かれている愛衣を眺めながら、
救急車も一応来てくれていたが、彼女の傷はズッコケたときに膝を擦りむいた程度。
それ以外は全くの無傷。
本当によかった。
因みに、私は既に警察と話し終えている。
駆けつけただけだし。
ストーカー被害を二年も受けていた彼女と違ってすぐに終わった。
にしても、どうして私はあんなに必死に愛衣を守ろうとしたのだろう。
大親友の妹だから?
居候だから?
いろんな理由を思い浮かべては却下する。
どれもしっくりこない。
本当は思い当たる感情がある。
でも、それをハッキリさせてしまったら。
私は私でなくなってしまうかもしれない。
愛衣との関係が崩壊するかもしれない。
それだけは嫌だ。
「ひろちゃん」
ぼーっと考えていたところに声をかけられたから、ビックリして肩が跳ねた。
「もう終わったん?」
思考に蓋をして愛衣と向き合う。
「うん。今日はもう帰ってええって。んで、明日また警察に来てほしいって」
「そっか」
証拠品を取りに行かないと。
きっと必要だろう。
車へ足を向けた私に、
「ひろちゃん」
「ん?」
膝に絆創膏を貼った愛衣。
朝となにも変わらない愛衣。
「私を見つけてくれてありがとう」
ニッコリと向日葵みたいに笑う姿も、いつもと変わらない。
「どういたしまして。ほな、帰ろ――」
「あんな」
表情を一変させ、深刻そうな顔。
どうした?
貴女を悩ませ続けてきたストーカーはもう捕まった。
心配することなど、なに一つないはずなのに。
「家に帰ったら話があるねん」
「おん……わかったけど、帰りながらやったらアカンの?」
車の中でも話ができるのに。
「落ち着いて話がしたいねん。それに」
「それに?」
「多分、ひろちゃん怒ると思うねん」
「は? 怒るって、なんで」
「いろいろと」
「いろいろと」
「うん」
たしかに。
約束を破って外出したことを怒らないといけない。
自らを危険にさらしたのだから。
それ以外に怒ることって……なんかある?
いくら考えても答えは出ない。
取り敢えず私は愛衣を車に乗せ、長い夜に区切りをつけた。
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