第5幕 事件発生
第24話 ルールは守らんと意味ないねん
滝のような雨がやんみ、静けさに包まれた夜。
「愛衣ちゃん、ストーカーの話を聞いてから考えてたんやけど」
「なあに?」
数時間前の深刻そうな表情はどこへやら。
すっかり定位置になったテレビの前に座り、キョトンと私を見上げてくる。
可愛くってしかたがないからやめてほしい。
それは置いといて。
「禁止事項決めてるやんか」
「あぁ、4つの」
居候を始めるにあたって決めたルール。
「3つ目が『勝手に外出しない』やんか」
「うん」
彼女の隣に腰を下ろす。
「それに追加でな『一人で勝手に外出しない』にしようと思うねん」
「私、ここに来てから一人で外に出たことないけど?」
「わかっとる」
彼女の言葉を信じるなら、という注釈をつけなければいけないけど。
まぁ……自ら危険に飛び込んでいく理由はないでしょ。
「念押し」
「……うん、わかった」
頷くまでの間が気になったものの、彼女を信用した。
それが昨日。
なのに、
新たなターゲットのスクープを狙ったものの、不発に終わり【今から帰る】と愛衣に連絡を入れた直後。
電話が鳴った。
画面には『愛衣』の文字。
何事?
もしかして、ストーカーがやって来たとか!?
焦って画面をタップすれば、
「ひろちゃん、今大丈夫?」
「大丈夫やけど、なんかあったん」
「あっ。心配するようなことやないから」
呑気な声にほっと息を吐く。
「トイレットペーパーがなくなりそうやねん。せやからな、ちょっと買いに行ってくるわ。鍵はごめんやけど、今電話に出られたってことは、すぐに帰って来るんやろ?」
「はっ、ちょっ、待った待った待った」
最初から最後まで勢いよく喋られ、漸く口を挟めたのに、
「ちょっとそこまでやから大丈夫!」
「待っ――」
電話を切られた。
「あんのアホッ」
車のエンジンをかけ、急発進。
昨日禁止事項を追加したとこでしょうが!
なにが「ちょっとそこまで」だ。
最寄りのスーパーまで、徒歩で15分。
割と距離あるでしょうが!
信号待ちの間に鞄を漁る。
「あった!」
私用スマホで愛衣に電話をかけ続け、仕事用のスマホで警察に通報する。
「出ないっ」
あのアホッ。せめて電話は繋がるようにしといてよ。
「あぁもう」
嫌な予感がする。
こういうときの勘は当たる方なのだ。
昔から。
杞憂に終わればそれでいい。
私が警察に怒られるだけならいい。
彼女がストーカーに襲われるより何倍も。
青信号になると同時にアクセルを踏み込んだ瞬間、
「ひろちゃん!」
繋がった!
「あんた今どこに――」
「ヤバイ見つかった!」
誰に、なんて聞かなくてもわかる。
出歩かないように忠告したのに。
禁止したのに。
油断して初めて外出した結果、愛衣はストーカーに鉢合わせてしまったのだ。
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