第23話 居候継続

 後悔に苛まれる私に、愛衣はボソボソと話し続ける。


「一応隠れ家というか、セカンドハウスというか。そういうの家族と事務所には内緒であるんやけどね。そこも特定されてる可能性が……というか、家族も気づいてるかもしれん。見て見ぬふりをしてくれてるだけかもしれへん」


「あり得るなあ」


 多分、高田家のみなさんは愛衣に彼氏がいることも、同棲していることも知っていたはずだ。


 愛する娘の幸せのため、と言って彼女の動向を常に監視していた可能性が高い。


「せやったら、ストーカーのことも気づいてそうやけど」


「うーん。気づいてたら、とっくにストーカーは社会的に抹殺されてると思うで」


「たしかに」


 ストーカーもバカじゃない。


 家族の監視の目をかいくぐっていたのかもしれない。


 推測でしかないけれど。


「で、ひろちゃんにお願いがあるんやけど」


「……なに?」


「もうちょっとここにおらせてほしいねん」


 切実な願い。


 懇願と言い換えてもいい。


 必死さがにじみ出た両の目。


 そんなの、


「ええよ。ここを避難場所にしたらええ」


 私に拒否権があるわけないじゃん。


 これは、贖罪だ。


「今のところストーカー被害はないし。隠し撮りの写真とか、手紙が届くとかはないし」


 匿うことで少しでも愛衣に許してもらえるのなら、お安い御用だ。


「ところで、証拠品は?」


 ふっとわいた疑問。


 二年もの間ストーカーの被害にあっていたのなら、それなりに証拠品があるはず。


「全部トランクルームに放り込んどる」


「トランクルーム」


「うん」


 そうだよね。


 家に置いておけない。


 家族が勝手に愛衣の部屋に入る可能性が高いから。


 セカンドハウスにも置いておけない。


 ストーカーが証拠品を回収していく可能性だってなきにしもあらず。


「因みに、屋内型、屋外型。どっち?」


「屋内」


「屋内型なら警備員も監視カメラもあるし、安心か」


 黙って頷いた愛衣を今すぐ抱きしめてあげたくなった。


 そんな資格ないのに。


 てか、抱きしめるって。


 まるで愛衣を愛しく思っているみたいじゃないか。


「よろしくお願いします」


 私の戸惑いを知る由もない彼女が頭を下げた。


 逃げ場を壊した私に。

 

 清楚で可憐な花を凄惨に踏みにじったのは私だというのに。


「あっ」


 ゆっくりと頭を上げた愛衣は、目を見開いていた。


「ん?」


 私の後ろに視線を向ける彼女につられて振り返れば、


「夕立や」


 そんな生易しい降り方ではないけれど。


「いっつも思うんやけど」


「うん」


 二人して外を眺め、愛衣の言葉に相づちを打つ。


「滝のような大雨、豪雨、ってお天気お姉さんとかキャスターが言うやんか」


「おん」


「それってさ、最早『滝』やない?」


「たしかに」


 この雨が、私の罪も、戸惑いも、愛衣に対する感情も。


 全て洗い流してくれたらどんなに楽だろうか。

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