第22話 一体いつから
「すっ……ストーカー!?」
新事実発覚。
記者としては、いいネタになるんだけど。
そんなこと言ってられない。
新しいネタを得た喜びよりも、心配の方が勝っている。
記者としては失格だな。
って、それは置いといて。
「一体いつから。というか、めぐっちは知っとるん。なんも聞いてないねんけど」
可能性その一。
愛衣がめぐっちに口止めをした。
可能性その二。
「誰にも言うてへん」
「なんでよ、せめてめぐっちには――」
「心配かけとうなかったし。それに」
言葉を区切り、心を落ち着かせるためかコーヒーを一口飲み、
「言うたら最後。家から一歩も出させてもらわれへんようになる」
マグカップの中身を見つめたまま言った。
「あー……頭ん中で思い描けるわ」
カラダが勝手に天井を見上げてしまう。
そうなることは容易に想像できた。
過剰に妹を溺愛するめぐっち。
ある種、毒親と言ってもいいほど過保護に育ててきた愛衣の両親。
アイドルどころか芸能界を強制的に辞めさせられて、軟禁状態になる。
確実に。
「ほな、事務所には……って、事務所も信用してないんやったね」
「うん。なんかスケジュールを全部把握されとるねん」
「それってさ、事務所に内通者がおるか、事務所関係の人が犯人の可能性が高いってことやん」
暗い表情の愛衣。なんて声をかければいいのかわからない。
最悪すぎる。
身近な人に相談できない、孤独な闘い。
「警察には?」
私にできたのは、事実を確認することだけだった。
「相談しに行ったら、ストーカー行為が酷くなりそうな気がして行ってない」
「そっか」
上手く相づちを打つこともできない。
頼りない私が情けなくなる。
「一体いつから」
「……二年前ぐらいかなあ。後をつけられたり、隠し撮りの写真が届いたり」
「二年前って、彼氏と同棲し始めた頃やん」
「そう」
頷いた愛衣は、顔を上げた。
「家は特定されてるから帰りたぁないし、だから彼氏と同棲しとったねん。要するに、避難場所にしていた」
「そういう理由やったんか」
なんでもっと早く話してくれなかったのか。
そしたら、そのことを記事に……って、話せるわけないか。
唯一の避難場所を奪った、唯一信用していた人と別れさせてしまった私に。
内心、恨まれていても仕方がない。
「ホンマにごめん。私があんな記事書かんかったら」
後悔先に立たず。
謝ったって手遅れ。
「ええんよ。ひろちゃんが書かんでも、そのうちバレたやろうし」
上辺だけの許しかもしれないその言葉は、なんの慰めにもならなかった。
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