第19話 テレビ観賞

 The TwilighTトワイライトのセンター・涼香すずかの熱愛。


 今日、生放送の歌番組を終えた後に発表する。


 柱である愛衣が無期限の謹慎。


 センターである涼香にはどんな処分がくだされるだろう。


 無期限ではなくとも、似たような処分が発表されるはず。


 そうなったら……。


「どうなるんやろうなあ」


 私の呟きは愛衣に届いていない。


 彼女はテレビの前に座り、パフォーマンスを行っているメンバーたちをじっと見ている。


 冷めた目で。


 彼女の横に座る。


 歌い踊る14人のメンバーたち。


「ねえひろちゃん」


「なに?」


 目線は動かさず、話しかけてきた彼女に応える。


「酷いなあ、全員」


「……そやね」


 ソロパートはほぼない。


 ハモリが多い愛衣。


 目立たないが、歌を縁の下の力持ちとして支えている彼女を欠いた生歌でのパフォーマンス。


 デビューしてから約6年経ったとは思えないほど、酷い出来。


「ファンは気づいてるかもしれへんけど、メンバーのほとんどが音痴に近いねん」


「おーん」


 彼女たちのパフォーマンスをちゃんと観たのは今日が初めて。


 それでもわかる。


 わかってしまう。


「涼香も謹慎になったら、グループは終わるかもしれへんね」


 他人事のように話す愛衣。


「それでええの」


「ええよ」


 即答だった。


「思うんやけど」


 興味を失ったのか、観ていられなくなったのか。


 愛衣は私に視線を向けた。


「アイドルって動物園とか、水族館とか。ショーケースの中の『見世物』やんか」


「否定できひんね」


 見世物。


 否定できないどころか、言い得て妙だ。


「そんなモノに憧れてた自分がアホみたいや。今はなろうとなろうと思えば誰でもなれる時代。SNSで自称しちゃえばええし」


「SNSで活躍する素人さんが結構おるもんね」


 激しく同意。


 アイドルに対する憧れは今も昔も変わらないけれど、昔のように遠い存在ではなくなってしまった。


 残念ながら。


 そこら辺のアイドルよりも、SNSでの素人インフルエンサーの方が人気。


 なんてことはざらにある。


「私ね、離れてみてわかった」


「やっぱり私の居場所はThe TwilighTやない。謹慎が明ける前に、自分から辞めようと思う」


 固い決意を秘めた大きな瞳。


「そうか」


 月並みなことしか言えない。


 自分の中の辞書を探しても探しても、今の愛衣にかける言葉は見当たらなかった。

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