第18話 過保護なのも考えもの

 二日に一回のペースでめぐっちから電話がかかってくる。


 つまりは定期連絡。


 こちらからかけることはほとんどない。


 出られなかったときに折り返し電話をするぐらい。


「今日の愛衣、どんな感じやった?」


 まず、様子を尋ねてくる。


「いつも通り」


「ええこっちゃ」


 うんうん、と頷いている姿が目に浮かぶ。


「退屈してない?」


 毎回同じ質問。


「うん、テレビ観たり、掃除してくれたりしてくれてる。楽しそうやで」


「そっかそっか」


 報告する内容はいつも同じ。


 別にわざわざ電話する必要がない。


「メッセージでいいじゃん」


 と伝えたら、


「文字打つのがめんどいねん」


 めんどくさがりな彼女らしい理由だった。


 あと、


「ホンマに100万振り込んでくるやん」


「言うたやん」


 彼女は本当に100万円を振り込んできた。


「冗談やと思うやん」


「100万ぐらいなんてことないて」


「100万ぐらいって」


 普通に働いていて、100万円ためるのにどれだけ苦労するか。


 このお嬢様は知らないのだろう。


 案外、愛衣の方が知っているかもしれないと思ってしまったのは、ここだけの秘密。


 そういえば、初めて掃除をしてくれたことを言ったときは、


「え!? 愛衣掃除できたんか」


 驚かれました。


 バリバリできますよ。


 なんなら私よりも丁寧にやってくれてますよ。


 因みに、私の取材に同行していることは伏せている。


 本人の要望で。


 わかっているのだろう。


 言ってしまえば、止められることを。


 そう考えると、彼女が演じているのはファンやメンバーの前だけではないのかもしれない。


 家族の前でさえ、自分自身を偽っている。


 高田家のお嬢様を演じている。


 愛されるために。


 ご両親やめぐっちが望む『高田愛衣』でいるために。


 鳥籠の中に閉じ込められた鳥のようで可哀想になる。


 愛衣は今年で19歳。


 今、彼女は生まれてきて初めて自由を謳歌している感じがする。


 羽根を広げ、自由に空を翔ける鳥のように。


 丁寧に洗濯物を畳んでくれている愛衣を眺めながら思う。


 実家を出ることができてよかった。


 自立するきっかけを与えられてよかった。


 そう解釈するのは、自分勝手で自己満足だろうか。




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