第15話 生き方

「堂々とですか……うーん。私、別に悪いことしていませんもの」


 右手を顎に当て、首をコテンと傾けた。


 可愛い仕草。


 よく似合ってる。


 じゃないじゃないじゃない。


「うん?」


 なに言ってんの。


「アイドルなのに彼氏と同棲したから、炎上してるんでしょ」


 何故無期限の自宅謹慎に追い込まれたか。


 わかってるよな。そこんとこ。


「アイドルが恋愛するのって、ダメなことですか?」


「めぐっちとおんなじこと言ってるな。流石姉妹」


 って、関心してる場合じゃない。


「愛して愛されただけなのに」


 純粋無垢な顔をして聞いてくる。


 冗談じゃなく、本気で聞いている。


「貴女はアイドルでしょ。一般人と同じじゃないの。事務所のお偉いさんとかマネージャーから散々言われてきたんじゃないの」


「そうですねえ」


 なにを呑気に語尾を伸ばしてんだ。


「それはそうなんですけど。私、別に本気で愛していたわけではないので」


「同棲していたのに?」


「はい」


 頷かれてしまった。


「ちょっと待って……貴女にとって、恋愛ってなに」


 わいて出てきた疑問。


 本気じゃなかったら、一体どういうつもりで付き合ってたんだ。


「んー」


 一瞬悩む素振りを見せたが、


「『アイドル・高田愛衣』の足元を支えてくれる土台の一部、ですかね」


 キッパリと言った。


「土台……」


 元カレが不憫になってきた。


 多分彼は本気で彼女を愛していただろうに。


「そもそもの話ですが、私は『高田愛衣』というアイドルを演じているだけですよ」


 演技力には自信があるんです。


 笑顔で言ったその言葉は本心か。


 冷たく、鋭さをはらんだ言葉。


「『ファンが心の支え』っていうアイドルは沢山いるでしょう。でも、私にとっては違うんです。存在理由、許可証みたいなものです」


「許可証?」


「ファンが望む私を演じるだけの毎日、面倒で放り出したくなるのを止めてくれたのが恋愛です。でも、演じることに飽きてきたので。先ほどもお話ししたように、そろそろアイドルを辞めるつもりです」


 引っかかる単語がいくつかあった。


 それについてもっと聞きたかったけれど、


「まぁ、それについては追々話していきますね」


 ニッコリシャットアウト。


 今は聞くなってことですか。


 はいはい、わかりましたよ。


 これから毎日共同生活していくんだから、またの機会にしますよ……あっ。


「ねぇ、記事書いていいって言ったよね。書いたらさ、いつまで経っても鎮火しないんじゃない?」


「あ、バレました?」


 バレバレだわ。


 再度頭を抱えた私を誰か慰めてください。

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