第14話 手に余る見返り

 それから彼女は、

「独占インタビューを書いてもらっていいですよ」


「過去の恋愛についても話します」


 と提案し、


「メンバーのスキャンダルについてもお話しします」


 微笑んだ。


 今、絶対に笑う場面じゃない。


「身内なのにいいの。特定される危険だってあるよ」


 彼氏の話は元カレに罪を被せることができる。


 メンバーの話はそうはいかない。


 彼女にしか相談していない話であれば、確実に流出元が特定される。


「別にいいんですよ。あの人たちに情なんてありませんし、ただの仲良しごっこを演じているだけですし」


「ごっこ?」


「えぇ」


 爆弾発言まみれで驚くのにも疲れた。


 ため息交じりの声で問う。


「私たち、センターの涼香すずか派と、中立派と、何故か私を中心とした派閥。3つに分かれていて、絶賛対立中なんです」


「成程」


 納得。


「……できるかいっ」


「はい?」


 キョトンとしないで。可愛いのはもう充分わかったから。


「いくら対立しているからって、情報を売ったら、貴女が復帰したときギスギスしまくるでしょうよ」


 ギスギスどころか、多分地獄絵図。


「ご心配なく」


 彼女は目を細めて笑いながら言った。


「アイドルそろそろ辞めたいと思っていたところなので。書いていただいた方が辞めやすくってありがたいです」


 もうなにを言われても驚かない、と思っていました。


 数秒前までは。


「え、辞めたいの?」


「はい。とっても」


 ニッコリ。


 怖いよマジで。笑っていられる意味がわからん。


「書いていただけますよね?」


「そりゃ……」


 私しか掴んでいないネタ。


 私にしか書けないゴシップ。


 大手出版社に復帰できる大チャンス。


 書かない理由はない。


 でも、即答できないのは。


 大親友の妹のスキャンダル記事を書いた罪悪感があるから。


「書いてください」


 彼女の目をじっと見つめる。


 迷いのない目。


「なんで」


「はい?」


「なんでそんな堂々としていられるの」


 戸惑い悩む私とは対照的な目に語りかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る