第13話 見返り

「私からもう一つ提案があります」


「もう一つ?」


 なんか提案されたこと……あぁ、呼び方に関してをカウントしてるのか。


 他になにか言いたいことが?


「居候させていただくにあたって、です」


「うん?」


 彼女の言葉一つひとつに疑問符を飛ばしていたらキリがないのはわかっている。


 仕方ないじゃん。


 どうしようもないじゃん。


 こればっかりは。


「お金なら――」


「それだけでは不十分だと思います」


「ほう」


 意外としっかりしてるな。


 自由奔放なだけかと思ってた。


 飲み終えたのか、ずっと両手で包んでいたマグカップを置いて話し始める。


「いつまでお世話になるのか。先ほどからずっと考えていたのですが、マスコミさんも暇ではないでしょうから、その内鎮火するでしょう」


「うん、そうだね」


 いつまでも高田愛衣を追い続けるほどマスコミは暇じゃない。


 まぁ、私は書き続けるつもりだけど。


「ですから、世間の注目が薄れた頃に実家に帰ろうかと。それまで住まわせていただくにあたって、個人的なお礼をしたいんです」


「はい?」


 お礼?


 この子、なにか勘違いしていないか。


 しっかりしている、ってことは責任感があるってことだ。


 それはいいこと。


 でも、

「私がアンタを謹慎に追い込んだのに?」

 彼氏との同棲をすっぱ抜いたのは誰か忘れてないか。


「えぇ。それはそれ。これはこれ、ですから」


 キッパリと言い切った。


 笑みを消した真剣な表情。


 怖いよ。


 スキャンダル記事を書いた本人を前にして平然としている貴女が。


「お礼の内容なんですが」


 私の恐怖を知るよしもない彼女は、

「謹慎処分になったことは明日の朝に発表されます。なので、公式発表よりも先に記事にしてください」

 坦々と爆弾発言を発した。


「は!?」


 驚きのあまり開いた口が塞がらない私を放置して話し続ける。


「その後は、彼と出会い、付き合うに至った経緯。同棲生活の内容、全てをお話しするので――」


「待った待った待った」


 たまらずストップをかける。


「首を傾けんな」


 可愛いけど。


 なんで止めるんですか? って顔に書いてあるよ。


「それ、事務所に怒られるでしょ。いいの」


「え? 私が話したってバレませんよ」


「バレるでしょ!」


 急にバカになったじゃん。


 なに言ってんだ。


「彼氏……あっ、元カレが話したって思いますよ。みんな」


「ちょっと待って」


 さらっと言ったけど、

「別れたの」


「はい。お姉さまから聞いてませんか?」


 また首を傾けられた。


「……あっ」


 そういえば電話で聞いたわ。


 情報過多で完全に吹き飛んでました。ごめんなさい。

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