第12話 禁止事項

 互いの呼び方が決まったところで、話しは全く進んでいない。


 危機管理能力がうっすい彼女。


 きちんと言葉にして伝える必要がある。


「まず、禁止事項を決めていこう」


「はい」


 こくり、と頷いたのを確認し話を続ける。


「1つ目。さっきも言ったけど、デリバリーは禁止。頼みたいなら、私がいるときにして。2つ目。重複するけど、私がいないときにインターホンが鳴っても出ないで。3つ目。勝手に外出しない」


「全部、身バレする可能性があるからですよね」


「そう」


 話の腰を折られてイラッとする。


 まぁ……理解が早くて助かるから良しとしようか。


 不満そうな顔もしていないし。


「最後に」


 私にとっては一番大事なこと。


「私の仕事を邪魔しないで。外出していることが多いと思うけど」


 勿論家で仕事をすることだってある。


 ただでさえプライベートを侵略されて腹立たしいのに、邪魔をされたらブチギレる。


 人生の中で一度も激怒したことなんてないんですけども。


「ご心配なく。空気は読める方なので」


「そう」


 グループで活動してきた賜物か。


 全然想像できない。


 目の前のお嬢様が、グループではメンバーの相談に何度も乗ってきた『柱』のような存在だなんて。


「今言ったこと、紙かなんかに書き出しておいた方がいい?」


「お気遣いありがとうございます。大丈夫です、記憶力には自信がありますから」


 しまった。


 つい、昔の感覚で接してしまった。


 幼かった彼女に接するように。


 振りや歌詞を覚えるのはグループ内でトップだったと聞く。


 これぐらい覚えるのは容易いんだろう。


 いくら蝶よ花よと温室育ちだとしても。


「あっ」


「どうされました?」


 大事なことを忘れていた。


「布団」


「布団?」


「あな……愛衣ちゃんが寝る布団がない」


「あぁ」


 私が使っているのはシングルベッド。


 いや、もし大きかったとしても彼女と同じベッドで眠りたくはない。


「それなら心配いりません。今日中に布団が届くはずです」


「は? いつの間に注文したの」


 コーヒーを準備している間に注文したのか?


「お姉さまが昨日注文していました」


「めぐっちかーい」


 思わず頭を抱えてしまった。


 あの策士め。


「用意周到だこと」


 口調をマネて言った皮肉は、

「はい、事前準備は大切なので」

 彼女には一切通じなかった。


 イラッとしちゃうわ。許せ。


「他の荷物は?」


 布団は解決した。


 でも、服は? その他の生活用品は?


 彼女が持って来たバッグは、スマホしか入らないような小さいもの。


「そちらも今日中に届きます。服などは持ってくるには重いので」


 成程。


 節約する気一切ねぇなっ。


 私だったら両手に抱え、リュックに詰め込んで持って来ていたことだろう。


 流石、過保護&溺愛されているお嬢様。

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