第11話 他人行儀
「いつまでお世話になるかは、今は置いておきましょう」
舌打ちが聞こえたはず華麗にスルー。
互いにスルースキルは高いみたいだ。
なんて関心は放っておいて。
「そうだね」
ムカつくけど、彼女の意見が正しい。
話を前に進めよう。
「実家にいたときみたいに、手厚いフォローは一ミリも期待しないで。貴女のお世話係じゃなから、自分のことはある程度自分でやってもらう。私は普段留守にする方が多分多いから」
家事全般ができない人間を放置しておくのは不安しかない。
「わかりました……それは、お仕事でですか」
「そう」
当たり前だろ。
こちとら、記事になるターゲットを追うのに忙しいんだ。
「大変ですね。ゴシップ記者さんも」
ニッコリ。
さっきから彼女の発する言葉が全て嫌みに聞こえる。
「……」
私の心が歪んでいるだけ。
これに関しては、彼女に罪はない。
「料理は冷凍食品を買っておくから。もしくはデリバリー……はダメか」
「ダメですか?」
「ダメでしょ」
危機管理能力低すぎない?
「貴女、うっかりマスクとかサングラスとかしないで受け取りそうだから」
今日帽子とサングラスだけで家に来たのがいい例。
「たしかにそうですね。あり得ます」
素直で大変よろしい。
「あの、私にお手伝いできることはありますか?」
首を傾けて聞かれた。
可愛い。
じゃないっ。
「引きこもっていて。お願いだから」
「……わかりました」
素直だな。人として美点となり得る。
アイドルなのに彼氏と同棲しちゃった点で大きくマイナスされますが。
「あの、先ほどから気になっていたのですが」
「ん?」
すっかり冷めたはずのコーヒーに息を吹きかけ、一口飲んだ高田愛衣が口を開く。
「呼び方、昔みたいに名前で呼んでもらえませんか」
「え」
想定していなかった言葉に驚きの声が漏れる。
「凄く距離を感じます」
「あー……」
めぐっちと毎日遊んでいたときは彼女とも仲がよかったもんな。
「高田……さんは」
「他人行儀で嫌です」
笑いながらもじっと見つめてくる。
そんな真剣な目つきをすることか。
他人行儀って、他人じゃん。
今と昔じゃ立場が違う。
どう足搔いたって過去の関係には戻れない。
それでも、一つぐらいは要望を聞いてやってもいいか。
「わかった……
「はい。じゃあ、私も『ひろちゃん』って呼びますね」
彼女の微笑みは昔と変わらず可愛かった。
結局のところ、めぐっちが彼女を溺愛しているように、私もかつて甘やかしていた癖が残っているのかもしれない。
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