第2幕 話し合い

第10話 一旦休憩

 取り敢えず高田愛衣をリビングに招き入れる。


「お邪魔します」


 テレビ、ソファ。


 テーブルとセットの4脚の椅子。


 必要最低限の物しか置いていない部屋。


 殺風景な部屋が、高田愛衣という異質な存在が入ってきただけで華やかになった気がする。


「シンプルでいいですね」


 嫌みか。


 高田家の自室と比べたら、そりゃーシンプルでしょうよ。


「はぁ……コーヒー飲む?」


「はい、いただけますか」


 立ちっぱなしで疲れた。


 愛しのコーヒーで癒されたい。


「んじゃあそこに座っといて」


「わかりました」


 お湯を沸かし、マグカップを2つ手に取りながら彼女に目を向ける。


 姿勢をすっと伸ばして座っている。


 そういや、小さい頃から姿勢はよかったな。


 ふっとよみがえった記憶。


 あー。


 なんの変哲もない木のテーブルが豪華に見えてきた。


 一人暮らしなのに、店員さんの押しに負けて買ってしまったテーブルと椅子。


 荷物置き場と化していた 狭い部屋をただ圧迫しているだけの置物がまさか役に立つ日がくるとは。


 こんな形で。


 ため息をつきながらコーヒーを淹れ、彼女の前に置いた。


「どうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」


 そういや、猫舌だったな。


 なんども息を吹きかけてから一口飲む彼女を見て、再び思い出がよみがえる。


 出来立てのクッキーとかご飯とか、猫舌のくせに早く食べたい欲がまさって食べちゃって。


 熱い、熱いって大慌てする姿を見ながらめっぐっち、私、彼女たちのご両親は笑っていたなあ。


 って、思い出に浸っている場合じゃない。


「まず、確認なんだけど。事務所から下された処分は『自宅謹慎』なんだよね」


 これから共同生活をするために決めないといけないことがある。


「私にも関西弁でいいですよ」


 マグカップを握ったまま言った。


 無視します。


 さっさと話を進めたいので。


「期限は?」


「あ、お伝えしていませんでしたね。無期限です」


 さらっと言うなぁ。


 滅茶苦茶処分重いじゃん。


 当然っちゃー当然なんだけど……ん、無期限?


「まさかとは思うけど、活動再開するまでうちにいるつもり?」


「はい。なにか問題でも?」


「問題だらけでしょ」


 なに首を傾げてんだよ。


 可愛いけどさ。


「やっぱり実家に帰った方がよくない?」


 生粋のお嬢様を無期限に預かるのは荷が重い。


 あーあ。引き受けるんじゃなかった。


 てっきり期限が決まってると思い込んでいた。


 私のバカっ。


「お姉さまの声が漏れ聞こえていましたが、実家は誰かさんのせいでマスが……マスコミが殺到中なんです。うふふっ」


 笑って誤魔化したけど、今確実にマス『ゴミ』って言ったよな。私の仕事を。


 ただ、あながち間違いではないので否定しがたい。


 チッ。

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