第3幕 始まった共同生活
第16話 意外や意外
共同生活は、不愉快なことだらけだろうと予想していた。
家族以外で誰かと一緒に暮らすなんて初めてだし。
相手は生粋のお嬢様だし。
しかし。
予想は大きく裏切られる。
「洗濯、掃除はしなくていいから」
そう彼女には伝えてあった。
家事ができないってめぐっちから聞いていたから。
でも、取材で数日留守にして久しぶりに帰ってみれば。
たまっていたゴミが捨てられていた。
冷凍食品のゴミはきちんと分別されていた。
彼女が毎日使っているお風呂もトイレも綺麗に掃除されていた。
洗濯物は一切たまっていなかった。
ちゃんと畳んであった。
独り暮らしをしていたときよりも家が綺麗になっている。
まさかまさかの展開。
「えっ、家事できるじゃん」
それらを目にして驚く私に、
「これでも一応はいろいろできるんですよ。料理は皆目できませんが」
お得意の笑顔を顔に浮かべながら言った。
「私、整理整頓や掃除は得意なんです。一時期寮で暮らしていたこともありますから」
高田愛衣が掃除。
その姿をイメージしようとしてみるけれど、できなかった。
お嬢様から一番かけ離れたものだからかもしれない。
更に、彼女は私が家にいる間も積極的に動いてくれた。
テーブルの上に放置したお菓子のゴミの片付け。
お風呂掃除。
トイレ掃除。
観察していると、毎日欠かさずにやってくれている。
そうして気がついた。
この子は『できない』のではなく、やらせてもらえなかっただけなんだ。
大事に育てられすぎて。
溺愛されすぎて。
テレビの前にちょこんと座り、ワイドショーを眺める愛衣。
「ずっとやってますねぇ。飽きないんですかね」
上目遣い。
可愛い顔で聞いてくる彼女に、何故かドギマギしながら思った。
できないことを人にやってもらうのは仕方がない。
彼女は、仕事に関係ないこと――家事をする機会を奪われてきた。
個人的な見解としては、
「一種の虐待だと思うなあ」
呟いた言葉は、テレビのコメンテーターの声にかき消された。
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