第4話 ご本人登場
彼女はドアと私の腕の間を潜って玄関に入って来た。
止める間もなく。
無言で。
無許可で。
これ、不法侵入では?
「お久しぶりです。元気でしたか?」
梅雨が終わり、木々の緑がウザイぐらいに眩しいこの季節。
薄っすら汗をかいている私とは対照的に、高田愛衣は爽やかな笑みを浮かべていた。
サングラスをしているから口元しかわからないけど。
え、なんで高田愛衣ってわかったかって?
そりゃねえ。
帽子とサングラスじゃ変装にならないのよ。
普通にオシャレをしているだけ。
「梅雨が明けたらすぐに夏がきましたね」
汗ひとつかいていないくせしてよく言うよ。
呑気にサングラスを外し、また笑った。
「この調子じゃ、8月9月は地獄ですね」
ふと気がついた。
たった数十秒の間に、場が彼女の支配下に置かれている。
私の家なのに。
まるで高田愛衣の独壇場。
流石はアイドル……なんて関心している場合じゃない。
取り敢えず目の前の彼女の服装に目を向けた。
一般人には絶対に似合わない女優帽。
柄も刺繍もない、ウエストが絞られたノースリブのワンピース。
シンプルが故にスタイルのよさを強調している。
若いからこそ出せる、たるんでいない二の腕。
きめ細かな肌。
靴はカジュアルな厚底の白。
避暑地にでも行くのかっていう服装。
初夏を体現しているような雰囲気。
そのまま清涼飲料水のCMに出られそうなくらい、お上品かつ爽やか。
世間が彼女に抱いていた『清楚』『上品』『お嬢様』なイメージ通り。
お嬢様ちっくなのではなく、正真正銘お嬢様なのだとファンや周囲の人間なら知っている。
「ねえ、ひろちゃんもそう思うでしょう?」
首を横に傾けて言った。
その仕草、呼び方。
昔からなにも変わっていない。
あざとくて、どういう風にふるまえば可愛く見えるのかを知っている。
変わってしまったことをあげるとするならば、立場か。
一般人からアイドルへ。
自由に恋愛できる人間から、愛する人の存在がバレた途端に袋叩きされる世界に踏み入れてしまった。
可憐で可愛い、高田愛衣。
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