第5話 話が通じない

「なんでここに……」


 彼女を頭のてっぺんから足元までじっくり観察した後、漸く発した言葉がこれですよ。


 我ながら情けないです。


「元気そうで良かった。お姉さまからお仕事クビになった、って聞いてから心配していたんですよ」


「待った待った」


 心配してくれてたんだ。


 ありがたい。


 じゃないっ。


 それは置いといて。


 腕を組み、いつの間にか私よりも高くなったどころか、170cmを超してしまった彼女を見上げる。


「質問に答えて。どうしてここにいるの」


 不法侵入してから笑顔を崩していないのは、流石アイドル。


 じゃない! 褒めてどうする。


「すっかり標準語。なんだか寂しいですね」


「待ってってば」


 靴を脱ごうとする彼女の腕を掴んで制止する。


「勝手に上がろうとしないで」


「えー」


「ふてくされんな」


 彼女と会わなくなって数年が経つ。


 けれど、頬を膨らませる彼女の表情は記憶の中の幼い少女と重なった。


「もう一度言います。どうして、ここにいるの」


「お姉さまに言われたので」


「お姉さまに」


「はい」


 そんなキョトンとした顔しないでよ。


 私、貴女の顔嫌いじゃないんだから。


 むしろ昔から好きだったんだから。


 顔ね、顔。顔限定。


 約10歳離れている私と高田愛衣。


 姉・愛実めぐみと遊ぶときは、基本的に彼女のどでかい家で遊んでいた。


 毎日のように入り浸っていた私は必然的に高田愛衣と何度も顔を合わせた。


 その度に、好奇心旺盛だった彼女は「遊んで」とせがんできた。


 愛実は当時から溺愛していたから即答。


 定期テストの勉強会で集まったときも。


 いついかなるときも。


 愛実の最優先事項は妹だった。


 私も最初は渋々遊んであげていたんだけど、あっという間に可愛さに魅了されてしまった。


 罪深いぷにっとしたほっぺ。


 むちむちした手。


 それが今じゃこんなに立派になって……時の流れは早いものだねえ。


「じゃないっ」


「ん?」


 彼女に不審がられようと気にしない。


 大事なのはそこちゃうねん。


「しゃーないから、めぐっちに直接聞く」


 正確には、電話で。


「あ、関西弁」


 無視を決め込み、ポケットからスマホを取り出して目の前の問題児の姉に電話をかけた。

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