夜の匂いと散歩道
まめなに
プロローグ
ありきたりな人生、個性なんて何も無い。
毎朝6時に起きて、朝ごはんを食べて、制服に着替える。電車に乗って学校に行って、授業を受ける。勉強も運動も、可もなく不可もなく。
平凡で、代わり映えの無い毎日。
特に他人を好きになることも無く、嫌いになることも無い。学校には仲のいい子だって居ないけど、仲の悪い子も居なくて、いつ私が居なくなっても誰も気付かない、そんな感じ。
母も私に興味があるなんてことは無くて、特に愛も感じていなかった。
ご飯は不味くないし、お風呂も温かくて、お布団はふかふか。ただ、少し空気は冷たかった。
母と私の2人にとってはこの家は広くて、つめたい。この家は父が残した唯一のものだった。
私は父の顔を知らない。
小さい頃に、私が生まれる頃にはもう父はいなかったと聞かされた。
写真にも残ってないし、ビデオにも残ってない。父の部屋だった場所を見ても、ベッドと机と大きなタンスしか無かった。
父の生きた証なんてものはなくて、ただただ物が置いてあるだけだった。
イメージで言うと、そう。ショールームの様な、生活感の無い部屋。最初から父の存在なんて無かったみたいな気持ちにさえなった。
母に、父の話を聞いたことが1度だけあった。
幼かった私でも、空気がピリついたのがよく分かった。聞いてはいけないことを聞いたみたいで、子供ながらにあまり聞いてはいけないという事を理解した。それから私は母の前で父の話題を出すことは無かった。
寂しさは、人並みにはあるはず。でも、こんなにも寂しいと思ったのは初めてだった。
私の心にはすきま風が通っている。それも、大きな隙間。
この心の隙間を埋めたい。
夜の匂いと散歩道 まめなに @kodoku_0
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