第36話
「って、生徒から聞いたんですけど、実際のところどうなんですかね、雲林院悠造殿?」
「そ、それは……」
(なんてことをしてくれたんだあの親は!)
「ってか?」
思ったと同時にまったく同じことを久々宮清仁が言った。
「そんな! 私どもの監督不行き届きでございます」
「ならあの両親に言っておけ。二度と栄明寺御月に近づくなと。破れば……」
「わかっているな?」
ぞくりと背筋が凍った。
久々宮家に逆らうと、再び日の目を見ることはできない。その命令が道徳的に正しかろうが、正しくなかろうが。
「あ、あの……!」
振り返るとそこに立っていたのは、栄明寺御月によく似た、関東校の制服を着た女の子だった。髪は長く艶があり、栄明寺も伸ばしたらあんなきれいな髪になるかもしれないなとふと思った。
「近畿校の……先生ですか?」
「そうだが、どうかしたか?」
しっかり声を聞いて「もしや」と思った。
「お姉ちゃん、どうしてますか」
(やっぱり)
「栄明寺御月か。元気そうにしてるよ」
「そうですか……なら、よかった」
眉を下げて笑った様子を見て、やはりこの家族の家庭環境は歪んでいたのだと思った。
「あの、私……ちゃんとお姉ちゃんと話をしたことがなくて……だから、今度会えたときにはちゃんと……」
「鈴華!」
ぱたぱたと足音が近づいてくる。ハッと我に返ったような、少し怯えるような顔をしてから頭を下げ、一言「すみません失礼します」と言って戻っていった。
(その気持ちはちゃんと伝えられる。もう少し待っていたら、必ず)
それとは別の件だが、間違いないと思っていた。
雲林院のことではなく。
(京都駅で感じたあの空気。栄明寺を保健室に抱えてったときに感じた、同じ空気。あれは……)
「栄明寺、月……」
因縁の相手――と恨んでいるのは、俺だけだろう。
しかし、
「栄明寺月。次会ったら……」
(
「よぉし全員復活したな?」
「一応ってとこちゃいますか?」
「甘ぁ〜くみて復活です!」
「お前は復活してただろ」
ああ、これだ。そう思った。
「やんで! 秋の対抗試合までにもう数段上を目指すしな!」
どうやら秋には、四校対抗試合があるらしい。団体戦と個人戦の他にも、タイムアタックやただの交流食事会など、毎年親睦を深めるのに役立つそうだ。
「やってる〜?」
「久々宮先生おかえり〜」
「はいよ、まだっぽいな。なら冬と栄明寺、ちょっと話がある」
なんだろうかと気を引き締め、久々宮先生のところへ向かう。すると私にきちんと畳まれた紙を差し出した。
「七柱の定例会合に出席してもらう」
宵待つ御月 山吹雄黄 @youoh
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