第29話
心のなかでそう呟いたとき、表面の穢れがボトボトと落ちた。それがどんどん地面に染み込んで広がっていき、次から次へと穢澱が出現する。
「手分けしよか。有馬と川上は、私とひたすらこの穢澱を浄化し続ける。一年三人はエイミーの相手して。私らより関係深いやろ、戻せる可能性はある」
「わかりました」
「
心解浄術。他の人間、動物、意思を持つと有馬先輩が定義したものの心を掌握し、操る能力。その真髄である《絶対服従》に抗えたものは久々宮さんくらいだ。
「栄明寺以外の穢澱は永続的に俺をロックオンすること」
早速効いたようだ。雪崩のように黒い大群が有馬先輩へ向かう。
「引きつけんで。走れ!」
七先輩の言葉で穢澱が生み出される黒い湖も後ろについて離れていく。
「こっちは任して。なんとか頼むで!」
川上先輩の言葉に三人揃って頷いた。
「さて……」
どうするか。
「見える未来には限界があるはずだ。秒数制限を利用する以外、方法は無い」
「ならとりま、幻惑浄術《障り》」
覚前がオーデコロンを取り出し《障り》をかける。同時に穢れが刀を抜いた。
(御月の大事にしてるもの勝手に使いやがって)
「動き妨害して攻撃の時間伸ばすし、その間にふたりとも!」
「おけー、前衛は任せてや」
「気をつけろよ。あのタコより数段強いぞ」
「タコに憎しみこもってんな」
「たこ焼きにしてやろうか」
「こぉ〜ら〜!」
こんな俺らの掛け合いを見て、戻ってきてくれないか。そんな希望が今、砕け散った。
「もウ、モドらないっ――あそこニは、戻ラない――――!!」
ビリビリと体を震わせるほどの覇気が発せられ、少し怯んでしまう。あのもの静かでおとなしい御月の内に、こんな激情を合わせ持っていたとは。
(また俺は、置いていかれるのか……?)
いや。
「やるぞ。出し惜しみはしない」
創現浄術《撃・ノナ》
「当然! やるでぇ!」
「はぁっ!」
ガッと音がして浅田のメリケンサックが本体にクリーンヒットする。そのままジャンプして飛び退くと、さっきまで浅田がいたところに刀が突き刺さる。
「っぶねーまじで」
さっきまでの軽さは消えている。それもそのはず、一歩間違えば刀で刺されてあの世へゴーだからだ。
「創現浄術《斬・トリ》」
目の前にブーメラン状の刃が三つ現れる。勢いのままつかんで投げると、三つともヒットした。しかし依然として黒いままで、一か所だけしゅうと音を立てる。
(効いてんのか効いてねぇのかわかんねえよ!)
さっきから攻撃自体は《障り》のおかげで当たるのだが、浄化できているかどうかと聞かれれば答えに困る。
しかし今のように、どれか一つに反応して黒い表面から音がするので、効果が見えていないだけだと信じたい。
「《撃・ヘキサ》!」
創現浄術が使えるのは合計九つまで。今は《斬》で三つ、《撃》で六つ使っている。
「ヒットアンドアウェイにしては退避の距離長すぎなんやけど」
「さぁ、出力整ってきたしやってみよか」
覚前がそう言ったとき、白い弾丸が全弾命中。すかさず《侵》を発動させると、先程までびくともしなかった黒い色が少し、灰色になった。
「かわの《侵》が効いた!? なんで!?」
「表面の穢れが弱ってきたんかな、わからんけど」
「弱ってるように見えるか?」
「いや見えんわ」
「何か違う要因が……」
そのとき、頭の中に声が響いてきた。
「同時に攻撃せなあかんらしい。今理久が一体浄化したし、それで河内の攻撃が効いたんや」
「有馬先輩!?」
「どっから……」
「こっちでカウントするし、それに合わせて攻撃して。こっちが浄化したタイミングとそっちの攻撃のタイミングが合えばダメージ入るはず。ただ焦らんでいい、できるだけ同タイミングを狙え」
親指を立てる。するとカウントが始まった。
「3、2、1……今!」
浅田も俺も合図で攻撃を繰り出す。ジャストでヒットし、かなり明るく変化した。
「いける。覚前!」
「よっし、任せといて!」
オーデコロンを一際沢山吹きかけると、扇子で一気に扇いだ。
「幻惑浄術《
これは俺ら浄化師の力を増幅させるもの。しかしタイムリミットが存在する。
「10分、頑張って!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます