第27話(1)

 すうっと意識が覚醒する。

(不思議な夢だったな……けれど)


 手をぐっぐっと握ってみる。まだ竹刀の感覚は残っていて、身のこなしや足捌きも覚えている。


(時間を渡れるならできるのかな、こんなことも)


 制服に着替えていると、三和土たたきの方からバサッと音がした。なんだろうと見に行くと、茶封筒が落ちていた。郵便物はいつも、小窓から三和土へ入れられるのだ。


「差出人不明……」

(まただ)


 手が震える。


 思い切って封を開けると、中には小さな紙がたくさん入っているようだった。緩やかにスライドさせてちゃぶ台に出すと、心臓が止まったかのように感じた。いや、実際止まっていたかもしれない。


「ひっ――――!!」



・4月5日

 祇園四条のアクセサリー店にて西陣織のピアスを購入。仕事に行ったあと回転寿司へ行き、近畿校へ帰る。


・4月29日

 近畿校一年生4人で廃校になる中学校へ準尭討伐に向かう。浄化力が枯渇し、回復に数日を要した。


・5月1日

 京都駅にて事件発生。調査に駆り出される。その後女子生徒と服屋を回り、服を余るほど購入。



 こう書かれたメモとともに、何枚も何枚も写真が出てくる。そのとき差出人が誰か、わかったような気がした。


「なんで今更……!?」


 アクセサリー店に入って、この西陣織のピアスを選ぶ姿。回転寿司で満身創痍で食事をする姿。近畿校の門をくぐる姿。車から降りて仕事の準備をする姿、しずに支えられて車に乗せられる姿、回復をはやめようとグラウンドで体を動かす姿、京都駅で調査をする姿、追いかける姿、服屋に連れて行かれる、試着、レジ、レストランに入る、食べる、お金を払う……


 私は中身をそのまま封筒に戻すと、きつく封をしてゴミ箱に捨てた。かたかたと手が震えて、今までにない怖さが身体中を駆け巡った。呼吸がはやくなる。


 そのとき、


「おーい、エイミー? 大丈夫?」

 はっと我に返った。


「ご、ごめんしず。朝ごはん行こ」



 それから一ヶ月ほどは、気が休まることがなかった。


(また、寝付けない……疲れてるはずなのに……)


 どこに行っても視線を感じて、見られているような感じがして、怖くなって必要以上の行動は取らなくなった。あまり、遊びに行こうと誘われなかったのが幸いだった。準尭(どころではなかったが)討伐の仕事をこなしたからか、私たち全員の階級が少し上がり、個人仕事が増えたことも要因だろう。私が何もない日は誰かが仕事、私が仕事の日は全員授業など、日にちが合わなくなった。それでも冬は変化を感じ取ったらしい。


「最近元気なさそうだけど、大丈夫か? 寝られてる?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

「しんどくなったら言えよ」


 放課後はほぼ毎日剣術の練習とトレーニングルームで筋トレをしていた。と言ってもすぐに効果が出るものではないため、ただ単に気を紛らわせるためのもの。しかし気が紛れるのはその一瞬で、再び怖さが襲ってくる。


「はあ、はぁ……はぁ……」


 かしゃんという音とともにその場に座り込む。穢れがほろほろと崩れ落ちていくのを見ることもできず、ただその場に体を落とした。寝付きが悪くなって、睡眠不足での仕事はいつも、体に響いた。

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