第26話

 ここまでの話で正直、読めていた現実。それでも今ここで心を決められるほど、肝は据わっていなかった。


「殺せるとすれば貴方や、あの久々宮家の弟……久々宮清仁君、そして河内家を出た冬青君くらいだろう」


(冬も……?)


「わかっておいてほしいのは、貴方も実感しているだろうが、ひとりではないということ。私たち先祖もみな、頼まれればなんでも答えるし、なんでも教えよう」

「では……」


 今日気になったことを聞いてみることにした。

「伝術書に書かれていない浄化術がありますよね。それは《現》だけですか?」


 伝術書に書かれているのは栄明寺剣術の型と浄化術《未だ来》、過去に戻る《過ち》、これだけだった。


「察しがいいね。もちろんこれだけではないよ。《現》ともう二、三種類あるけれど、それらは伝術書に無くても習得できるから大丈夫」

「そうですか……なら、あとひとつ――いや、ひとつなのかな……」

「迷うなら申してみなさいな」


 その言葉に背中を押され、言ってみることにした。


「栄明寺剣術の、見本が見たいです」

「おや、それなら桜月さんを呼ぼうか」


 すると何もなかった白い空間から、同じような袴をはいた男の人が現れた。竹刀を二本、たずさえている。


「呼んだか?」

「桜月さん、御月さんが栄明寺剣術をご覧になりたいそうで」

「そうだろうと思った」


 昔の人にしては背が高い。私が立ち上がっても、桜月さんの肩にも届いていないのだ。桜月さんは私の前まで歩いてくると、竹刀を差し出した。


「一本持て」

「は、はい」

 両手で受け取ると桜月さんが横に並ぶ。


「いいか、栄明寺剣術は全盛期、美しい剣術と言われていた。お前の今の動きのままでは本来の力の半分も出せない。というか、美しい剣術を継承できていたのは樹月、お前の代までだろうな」


「短いですね。桜月さんは私の曽祖父に当たるので」

「取り敢えず構えからだ。やってみろ」


 竹刀を握りなおすと、触るぞと言われて姿勢を直されていく。

(うわ、全然違う……!)


「誰にも習ってないのにあれだけできるのも、才能だとは思いますけれど」

「だからこそ教えたくなる。このままでは惜しいからな。厳しくいくぞ」

「よろしくお願いします――!」



「はっ!」

 バシッ


 竹刀のぶつかり合う音がして、手に振動が伝わってくる。直ぐに回避にまわり、次の攻撃の糸口を探すが、体勢を崩したところを突かれてしまった。


「甘い」

「わっ!」


 足元を払われて転んだのをきっかけにドリフト走行の要領で体勢を立て直すが、桜月さんは竹刀を下ろした。


「マシになったな」

「そこは良くなったって言ってあげましょうよ、素直に」

「まだまだなので、それは本当に良くなったら言っていただきたいです」

「ほらこういうこと言ってしまうじゃないですか。御月さんはもっと自分を褒めて、大事にしなさいな」


 褒めて、大事にする、される。そういうものは鈴華の役割だと思っていた。


「……はい。ありがとうございます」

「また来るよ。稽古はこれからもつけてもらうんだね?」

「お願いしたいです」


「取り敢えずもう一回か二回、実戦やってこい。それから稽古だ」

「わかりました。よろしくお願いします」


「よし、もう朝だ。良い一日を」

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