ある男

第22話

 朝。


 寮に響いたアナウンスに叩き起こされると、学校は騒然としていた。制服に着替えてパーカーを手に持ってバタバタと降りると、既に冬が朝食を食べ始めようとしているところだった。


「何があったの?」

「京都駅で変死体。調査要請がかかった」


「おはよう冬、栄明寺」

「おはようございます先生」

 久々宮先生があくびをしながらパーカーに腕を通す。


「朝からどこのどいつだよ。昨日遅かったのにさあ」

 トレーを取ってパンをトースターに入れる。最近は少しだけ食べる量が増えた。


「おはよう。これ今入ってる情報な」

「ありがとうございます」


 渡辺先生がざっと情報をまとめた紙を印刷して持ってきた。受け取って確認すると、通報が入った時間や周囲の状況などが細かく書かれている。


 トースターから焼けたパンを取り出して卵と野菜と一緒に食べていると、続々と寮から高等部の生徒が集まってきた。しかしいつもよりピリピリとした空気を感じる。


 みんなが食べ終わると、その場で渡辺先生から今日の流れが説明された。何班かに分かれて穢れ、澱みの捜索と関係者からの聞き取り調査、現地調査、検死など、仕事は山積みらしい。


「班分けしよか。検死は僕と作田さくたがやるし」

 緊急で引っ張ってきたホワイトボードに、班の人と役割が書かれていく。



 渡辺・作田(二年生担任)班(検死)


 久々宮・河内班(事件現場調査)


 川上・有馬・浅田班(聞き取り調査)


 糸久いとひさ(三年生担任)・覚前班(追跡1班)


 隠岐・栄明寺班(追跡2班)



 追跡とは、穢澱あいでんから滴り落ちた黒い液体や破片、気配を追いかけ、場所を突き止めることが目的らしい。この痕跡は浄化力を持っている人には引き付けられるように感じるため、誰にでも追跡は可能。だが僅かな痕跡となると厳しい場合もあるようだ。


 そもそもこの追跡を使える場合と使えない場合があり、使えるのは穢澱が移動をする特徴を持っているときだけらしい。今回は駅ということもあり、移動しているだろうと踏んでのことだった。


 しかも今回は、穢澱だけではなく、それを呼んだ者がいると想定されている。穢澱のいるところを見ると、なんとなく「嫌な感じがする」人もいるらしい。しかし今回、私たちより先に現場に入った警察の中に、その「嫌な感じ」を察知できる人が居たのだが、全く駅からは感じなかったという。


 実を言うと、警察も浄化師の協力者。よく思っていない警官もいるだろうが、浄化師の武器の所持は政府によって許可されている。公的機関との関わりも大事な要素だ。


「さあ、後は時間との勝負や。五分後にグラウンド集合!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る