閑話 京都駅にて

「動き出したようだね」


 雑踏の京都駅に立つ男が一人。明るい灰色の長髪、襟のないシャツに濃い灰色の着物を着て、避けて通る人の風で袴が揺れている。


 その男は薄いマフラーを巻いて、カンカン帽を被ると、雑踏の中に身を投じた。


 口元が少し弧を描いた数秒後、絹を裂いたような叫び声が駅構内に木霊する。



「その名を冠するは、吉か凶か」


 一気に地獄絵図と化す京都駅。駅員が走ってきて大声で何かを叫び、何事かと更に人が群がっていく。



「久しぶりに、退屈しなさそうだ。楽しみだなあ」



 男の白いシャツに血が点々と飛んでいるのには、誰一人として気づかなかった。

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