第20話
ヴウゥギェエエェェエ!!
これは《未だ来》でも《通告》でもなかったと思う。
これは、本能だ。
「まずいっ! 下が――――」
しかし俺には、懐に飛び込んだ二人しか見えていなかった。
俺は見逃していた。
俺と覚前も赤く染まっていたことを。
叫び声と共に足が一気に増え、先程までとは比べ物にならないほど鋭い爪が四人に襲い掛かる。
「ぐっ――!」
モロに食らいそうになる覚前を引っ張って避けさせるが、熱い感覚がして、俺は右脇腹に傷を負っていた。
「かわ!」
「くっそ……痛ぇよタコ! おい無事か!?」
「はーくん! エイミー!」
そのとき、白い斬撃が見えた気がした。そして二人が後ろに飛んでくる。
「浅田君がっ――!」
浅田は右肩、左脇腹、左太腿に深く傷があり、特に太腿はえぐられたような跡があった。けれど意識はあるようだ。
「あかん、これ半分、感覚無いわ……」
「見えてたのに自分のを捌くので精一杯で……」
「仕方ない。俺らみたいに避けられる隙は無かった」
穢れをにらみながら呟く。これはもはや、準尭ではなく尭……いや、藤に近い尭だ。
「この状況どうするん?」
「覚前は浅田を先生のところに連れて行ってくれ」
「これ骨折してるかもしれんやろ? 動かさへんほうが」
「逆に言うと、ずっとここに居たら出血多量で危なくなる。しかも浅田を守れる保証も無くなる」
「けど……」
すると今まで黙って聞いていた御月が、ウェストポーチから紐を4本取り出して口に咥えた。そして腰のベルトから鞘を抜くと、浅田の太腿に添えて紐で結んでいく。
(添え木か!)
「手伝う。いいのか?」
二本、紐をもらって浅田の足に巻き始める。
「栄明寺剣術に抜刀術は無いし、あったとしてもまだできないから」
全て巻き終えると、浅田は覚前に支えられて学校の外へ向かった。その背中を見ながらスマホを取り出して電話をかけるも、電波が繋がらない。
「電波も妨害されてんのか。さっきいきなり飛んできたけどどうやったんだ?」
「わざとたくさん浄化力をのせた刀を振って、衝撃で飛んできた」
御月は戦いの中で強くなっていくタイプなのかもしれない。さっきまでとは様子が違う。栄明寺は七柱の中でもトップクラスの戦闘能力を誇る家。その昔、栄明寺家の浄化師はこう呼ばれていた。
「先生の他に救護の人は来てるの?」
「いや、微妙だな。だけど無理に連盟が行かせたんだ。来てくれないと困る」
さっきの今で御月も怖くなっているだろう。もう一度懐に入るのは厳しいはずだ。しかも浅田ばかりに目がいってたが……
「二の腕怪我してる」
「なんとか防いだんだけど、表面はもっていかれちゃった」
ちょっと痛いと苦笑いする。この状況で笑っている御月に、少しだけ心の重石が軽くなった気がした。
「この校舎、壊すんだよね」
「ああ。え?」
驚いて目を見開くと、穢れを見ながら淡々と言った。
「ちょっとどこまでできるかやってみようかなって。さっきの《三日月》は効きが微妙で、《繊月》には範囲が広すぎる」
「《玉鉤》を最大出力か」
二人揃って、ゆらりと立ち上がる。
「援護する。至近距離でいいの入れてくれ。その後はできるだけ速くその場から離れろ」
「わかった」
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