第19話(2)

 上から勢いよく振り下ろすと、本体にクリーンヒット。降下でついた勢いが殺されて地面に難なく着地する。


「エイミーって案外無茶すんねやな」

 そこに追いついてきた浅田君と冬が合流する。

「ほんま、びっくりしたわ」


 しずが私の横に来ると、四人揃って戦闘態勢を取った。しずと冬が後ろに下がり、浅田君と私が前。《未だ来》はひっきりなしに稼働し、常に映像が変わり続けている。これはこれで疲れが来そうだ。


「とりま大人しくしてもらおか」


 首だけ振り返ると、しずがオーデコロンの瓶を取り出していた。空気に向かってシュッと一度吹きかける。そして人差し指を、魔法をかけるようにすいっと動かした。すると見えなかった香りが紫の色を帯びる。


(だめだ、ちゃんと前見てないと)

 柄をしっかり握ると、浅田君と出方をうかがう。


「幻惑浄術《障り》」


 特徴的な音がして、背後に風を感じた。扇子だ。


「効くの遅いと思うしそれまで頑張って!」

「りょーかい!」


 浅田君が勢いよくに答える。指先のない手袋がはめられた浅田君の左手には、メリケンサックが握られていた。降りてきたときに着けたのだろう。


 浅田君が地面を蹴って走り出す。私もその後ろを追うが、《未だ来》で見たものをリアルタイムで共有し続けるのは戦闘に向いていないと咄嗟に悟った。


 私たちの左から鋭い爪が伸びてきて、浅田君に振り下ろすのが見える。《通告》を使う冬ももうすぐ察知するだろう。


(私なら全部見える。だったら後は、)


「浅田! 左――」


 冬の声と同時か少しはやく、私が間に入った。浅田君が左に体を向けようとしていたが、私の乱入に驚いたようだ。少し固まっている。


 《未だ来》は攻撃を3つのカウントで表現していた。そして私はそのリズムを覚えている。


(いち、にの……)

「さんっ」


 リズムを合わせて刀を振るうと、初めてにしては上出来なほどだった。実態のある穢れの足が切断され、攻撃が消された。これなら浅田君を本体まで届けることができそうだ。


「近くはなんとか防げると思う。行って」

「おっけ最適解!」


 今の私は、妙に落ち着いていた。すうっと頭の奥まで晴れていくような感覚で、今なら役に立てる気がした。


 右から来る。流れで右へと走ろうとすると、

「右は任せろ。御月も防ぐ合間に本体ダメージ狙ってくれ」

「わかった」


 私が返答すると、冬がカバーへまわった。

「創現浄術《撃・オクタ》」


 背後からの攻撃に刀を振り下ろして捌くと、冬がパンっと両手を合わせた。次に大きく広げたときには、体の前に丸く白い弾が8つ等間隔に並んでいる。


 その弾丸が発射され、右から迫っていた爪に全弾命中する。威力はじゅうぶんだったようで、足の先が宙を舞ってほろりと崩れ落ちた。


 そのとき、映像のリズムが遅くなった。


「もうすぐ効くと思う!」

(なるほど、動きを阻害する術だったんだ)


 今がチャンスと、浅田君も私も一気に距離を詰めようと足を踏みしめる。


引斥いんせき浄術」


 浅田君の周辺からピリピリとした浄化力のエネルギーを感じる。きっと溜めを作っているのだろう。


「月の剣よ今この先に、月明の力を授け給え」


 刀を、突き技ができるように持ち替える。浄化力がゆらゆらと揺れ、ほぼ同時に二人が地面を蹴った。


「《疾風》!」

 《三日月》


 拮抗していた穢れの動きが、二人を下回った。

 浅田君の右手にはめ直したメリケンサック、私の刀の先が、本体に叩き込まれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る