第19話(1)

 校舎を手分けして捜索しているが、いまだ《未だ来》にヒットはない。冬の《通告》にも変わりはないらしく、段々と警戒心が緩んできてしまう。


「これだけ出えへんって逆におかしない?」

「まだ仕事に一回しか行ったことないからなんとも言えないんだけど、こんなに遅くはなかったかも」


「一回校庭出てみる?」

「校庭……校庭?」


 そのとき、被害者の成績をふと思い出した。


「……しず、これってもしかして校庭が問題なんじゃない?」

「え? なんで?」

「原因、体育だと思うんだ」


 私の考えはこうだ。


 そもそも珍しいことを除けば、被害者の生徒の中にオール5はひとりもいない。どれほど賢い生徒であっても、だ。けれど、「成績優秀で進学先も府内有数の進学校の予定」の生徒が座学を落とすとは考えられない。かつ、この生徒は吹奏楽部でパートリーダーをしており、音楽の成績は良いだろう。


 であれば他の共通の教科で落としている可能性が高い。この高校は一年で技術、二年で家庭科を履修する。情報系に強い生徒も被害者に含まれていること、どれだけ教室が並ぶ校舎を調べても出現しないことを考えると、残る教科はあと一つ。


「なるほど確かに!」

「校庭だけじゃないけどね。体育館もあり得るかも」

「水泳部が運動苦手なんかなって思ったけど、陸じゃないもんなぁ」


 その瞬間。


「あれは……!」


 咄嗟にミュートを解除する。

「校庭見て!」


 近くにいるしずも、少し遠くにいる二人も、一斉に校庭を見たようだ。間髪入れず、冬が応当する。


「やっと引っ掛かったな。《通告》反応有り! 降りるぞ!」


 ずずずと黒いものが池のように広がっていき、大きな穢れが形作られていく。その姿はタコのような、イカのような、足が複数ある姿をしていた。その足先には鋭い爪のようなものが見える。


 私はガラス窓を開け放つと、枠に足をかけた。こちらに爪を向け、私たちに迫ってくる。


「ちょっ、ここ三階!!」


 穢れは実体がある。なら、穢れに乗れるのでは? と前から考えていたのだ。ただでさえみんなより体力が少ないのに、階段なんて使っていたらすぐ底をついてしまうだろう。


(初動で一撃、決める!)


 初めて刀を握った日から少しずつ、戦う覚悟を固めてきたのだ。

 引っ掻くような攻撃をかわした直後、しずは笑ってこう言った。


「こっからちまちま降りんのもめんどいな。よっしゃショートカットしよか!」


 もう一つ窓を開け、二人で穢れに飛び乗るとそのまま滑り台の要領で下っていく。まさか穢れも、自分が遊具のように使われるとは思ってもみなかっただろう。


 本体が近くに迫ってきたところで、靴底をしっかり着けて踏み込んでジャンプし、錫杖から刀を引き抜く。


「月から欠けた暗闇よ。汝、再びめぐり逢わん」

 《繊月》!

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