第18話

 ある土曜日に外に出て買ったリュックサックに、財布とスマホ、タオルやティッシュを入れた。未だに大きく感じる制服に袖を通して、袖が邪魔にならないよう折ってアメピンで止める。スカートをベルトで止めてウェストポーチを引っ掛け、ピアスをはめる。


 コンコン


「はーい」

「用意できた?」

「ほぼね。これ、やってみたよ」


 袖を見せると、しずは親指を立てた。パーカーを羽織る。

「いいやん。あ、それリュックの中入れたで」


 足を守るためのカバーや手袋など、まだ出ていたものをリュックサックの中に入れる。

「さ、行こ?」


 しずと連れ立って校門まで行くと、既に冬と浅田君が待っていた。


「先生は?」

「まだやな。打ち合わせでもしてんちゃう?」

「最終確認だろうな。仮にも一年を準尭の仕事に向かわせるんだから」


 それから少し待っていると、渡辺先生が走って現れた。

「ごめんごめん、ほな向かおか」


 車に乗り込むと、リュックサックを膝に抱いた。他のみんなは慣れているのか、スマホを触ったり談笑したりしていたが、私はそれを見ているだけで精一杯だった。


「さ、着いたで」

 車の外に出ると、リュックサックの中から最後の装備を取り出して用意を済ませる。


「ほんまにヤバくなったらすぐ呼んでや」

「わかってます」

「これ終わったらなんか食べ行こや」

「さんせ〜い!」


 元気だなと冬が苦笑する。そしてこそっと私に話しかけてきた。


「雰囲気と圧力には飲まれんなよ。前あれだけできてたんだから大丈夫」

「うん……だと信じるよ」

「一回笑って深呼吸しとけ。大抵それで気分が変わる」


 冬がワイヤレスイヤホンを配りに行ったときに、言われた通りやってみた。確かに不思議と体も心も軽くなったような気がする。


 イヤホンを受け取って装着すると、しずが握った手を私たちの前に出してきた。


「とりま生還目標に」

「当然だろ」

「昼飯か夕飯かわからんけど何が良いか考えとこ」


 くすっと笑って、

「うん」


 四人で拳を軽く突き合わせ、廃校舎の門をくぐった。

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