累卵之危
第16話
今日の授業も5限目。四人の教室は、あたたかく眠い空気に包まれている。
「浅田起きろー」
「やって先生、食べたばっかって眠いじゃないすか」
ふわあとあくびをしながら答えた浅田君。確かにこの時間帯に数学は厳しいものがある。
「栄明寺とまでは言わんけど、せめて河内を見習え」
「どういう意味ですか」
冬が心外だと言うように反論するが、
「眠気と戦うんに必死で半分授業聞いてへんやろ」
「あは、かわもはーくんと同罪〜」
「お前もな、覚前」
私はあまり眠くない。というのも、この時間なら普通に家事をしていたからだ。
「ならもうしょうがないし、起きなあかん話でもしょうか」
「え、寝かせて?」
仕方がないなあと三人が体を起こすと、渡辺先生が全員の机に紙を置いた。要項のようで、紙のはじめには少し大きな文字で、
「準尭って先生、配る要項間違えてんで」
「それがやねん、四人には準尭まで仕事できるようにって上の人らが言うてんのや」
「無茶ですよそれは。素直に受け取ってきたんですか」
「久々宮が出張のときに呼び出されてなあ。できる限り反論はしたんやけど押し切られてしもた」
最早常套手段になってんな、と冬がため息をつく。
「うわ引率ありなんて久しぶり〜」
「一応僕が引率するし。というか引率するんやったら僕が出て浄化すればええ話なんやけど」
「それだ。先生よろしく」
「上の仕事の割り振りに口出したら先生、担任持てんくなってまうわ」
「ええ〜それは嫌や」
やれば良いんでしょやればと浅田君が要項をめくる。それから簡単な作戦会議がはじまった。数学はまたの機会に持ち越しされるらしい。
「準尭の穢れとか正直信じられへんわ」
「上は俺らの最悪の場合を考えたんですかね」
冬が皮肉っぽく言う。その考えはもっともだと渡辺先生が肯定した。
「この前、かわとエイミーで仕事行ったんやろ? どうやった?」
「階級が為だったから何も参考にはならないと思うけど、事はすんなり進んだ。あれからコントロールは?」
「練習中だけど、だいぶ楽になった。頭痛もないよ」
実はこの前の仕事で未来を見ることができるようになったと話すと、二人は興味津々といった様子だった。
「場所は中学校? 準尭の仕事なんて窓ガラスとか床とかぶっ壊すと思うんやけど」
しずが設備の心配をしている。だが場所の説明欄には、今後廃校舎となると表記されていた。
「中学校が統合されるみたい。もうこの校舎は使わないんじゃない?」
「なら暴れても大丈夫なんやな」
「お前それ洒落にならねえよ」
冬が苦笑いする。浅田君は「原石の浄化師」といって、突然浄化力に覚醒した浄化師らしい。浄化術の取説もないので、自分に何ができるのか探るのが大変だったと言っていた。結局、素手での組手がメインだったらしく、柔道をやっていてよかったと笑った。
「二人ずつで回って探したほうが早いんやろうけど、そうもいかへんよなあ」
「こん中やったら河内が一番可能性あるやろ。な、先生?」
「まあそうやなあ。でも浅田も昇級まであとちょっとやろ?」
「キャリアが違いますやんキャリアが」
「まあそやけど」
実力は変わらねえよと冬が横から突っ込む。
「さあどうだか。で、今回も河内がリーダーでいいんやろ?」
「その方が安定するやろしな」
「わかりました」
一年で行くときはいつも、冬を先頭に仕事をするらしい。冬は冷静だし場数も比べ物にならないほどたくさん踏んでいるから、先生も頼りにしているみたいだ。
「どう分ける?」
「かわには《通告》があるし、エイミーは未来が見える。なら分けたほうがいいんじゃない?」
「それは思ってた。不意打ち食らって全滅じゃ困るからな」
《通告》とは七柱に伝わる危機感知能力らしく、誰でも努力すれば獲得できるが、七柱から外に伝わったことは無いそうだ。どこが危険なのか、その場所が赤く染まるらしい。その他にも殺気に対して敏感になるらしく、これは見なくても危険を察知できるそうだ。
「エイミーはどう? まだかわとしか戦ったことないやろ?」
「うん。でも良いと思う」
「よし決まり。近接と遠距離でバランスよく組むんやったら、俺と河内、覚前とエイミーやな」
「この仕事は明後日か。今日詳細を詰めて、明日は確認だけにしておいたほうがいいな」
「先生授業やる?」
「そうしたいのは山々なんやけど?」
「なら今は授業受けようや。放課後教室残って考えたら良いんやし」
「ほんまこの変わり身のはやさはいつ見てもびっくりやわ」
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