閑話 東京にて

 近畿校入学式当日。

 東京。

 雲林院家邸宅の居間には、三人の大人が集っていた。


「本当に入学したか……」

「止めきれず、申し訳ございませんでした」


 仕方がないと息を吐く雲林院悠造。


「相手は久々宮清仁。運が悪かった」


 あの出来損ないの娘が連れていかれてから、あの男がどういう者だったのかを知った。久々宮清仁。階級、藤。久々宮家次男にして、三傑浄化術「清白身軀せいびゃくしんく」の完全体。名実ともに最強の浄化師。


 その三傑浄化術のひとつを、あの女が持っているとは、思いもしなかった。


「あの親不孝者が……まさかあんな浄化術を使えるなんて」

「逃した魚は大きかった、というわけだ」


 緑茶を飲みきった湯呑みをだんっと乱暴に置く。そしてしばしの沈黙。


「……あの者を失うということは、浄化師全員の損失となるだろう。ただし、そうも言ってられん」


「栄明寺と雲林院は一蓮托生、ですね」

「そうだ。久々宮清仁が何を思っているかは分からん。しかし我々が、あの者がそちらの娘であったと知っていることを知られては、待遇に対し疑問を投げかけられるのは必至」


「やはり連れ戻して隠すしか……」

「連れ戻すと言っても、今度は相手が久々宮清仁だけではなくなってしまう。武闘派で有名な近畿校。相手にしたくはない」


「あの子が自ら戻ってくるよう仕向けるんですよ! なら近畿校も手出しできないでしょう?」

「確かにそれが良いが……怪しまれずできるだろうか」


「少し様子を見に京都へ行ってみても? 鈴華の入学式も終わったし。ね、お父さん」


 その案には賛成だった。


「確かに……今どのような生活をしているのか探ったほうが良いのでは?」

「では、頼まれてくれるか?」

「ええもちろん。早速明日にも京都へ行きましょう」


 そしてその京都で見たのは、同じような制服を着て、すらっとした立ち姿の男とピアスを選ぶ娘だった。


「あいつ……!」


 隣で妻がそう言っているのが耳に入った。その時頭に、一つの考えが浮かび上がった。


 すれ違いざまにはっとした表情を浮かべた娘は、男になんとか弁明している。


 ただただ、いい気味だった。

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