第14話

 その後メイン通りから路地へと入り、目的の病院まで歩いて向かっていた。


「今のうちに聞いておきたいことがあれば、答えられるものだったら答えるけど」

「私肝心なこと聞き忘れてて」

「なんだ?」

「穢れと澱みの違いって何?」


「ああ、確かに説明してなかったか。穢れは主に怒りの感情が生み出すものだ。実体があって物理攻撃が通る。でも澱みは後悔や悲しみが主体だ。こっちは穢れと違って実体はあっても流動的で物理攻撃が効きづらい。穢れは結構強くてアクティブな感情でできていて、澱みはどちらかというと静かなエネルギーが集まってできた感じかな」


「じゃあ……嫉妬とか、間みたいな感情って穢れとか澱みにはないの?」

「はっきり分けられているわけじゃなくて、グラデーションみたいに実体のあるものから流動的なものまで個体によるんだ。だからそういう狭間の感情は、どっちの要素を多く含んでるかによって穢れか澱みかが決まるってこと」


「なるほど……」

 少し自分の中で消化する。学ぶことはまだまだありそうだ。


「あとこういうのって、解体工事の人が通ったのと同じ部屋の順番で通るの?」

「まあそれでもいいし、そうじゃなくても浄化師相手なら大抵の奴は出てくる。浄化してほしくないから先手を取ってくるんだ」


 冬は依然として落ち着いている。これが場数の違いというものなんだろう。


「さ、着いた」

 見上げると灰色に汚れた建物で、ところどころ窓ガラスが割られている。ただならぬ雰囲気を感じてこくりと喉が鳴った。


「何か感じるか?」

「威圧感みたいなものが」

「ならいい。それが浄化師の普通だ」


 分厚いガラス戸を押して入ると、受け付けだったのであろうカウンターにホコリが積もっていた。右に行けば診察室が、左に行けばリハビリの部屋があるらしい。


「手分けできそうか?」

「たぶん」

「これ付けて」


 渡されたのはワイヤレスイヤホンだった。片耳式のヘッドセットのようで、長い棒のようなものが付いている。耳に引っ掛けるようにして付けると、何か子機のようなものを取り出してそのイヤホンに音声を接続した。


「ここ、ボタンあるだろ? これを押すとミュートになる」

 かちっと冬がボタンを押すと、二重に聞こえていた冬の声がイヤホンから聞こえなくなった。


「基本はミュート状態にしておいて、何か話すときはこれを押す。最初のうちは忘れることもあるだろうから、ミュートになってなかったら言うよ」

「うん。お願い」


 そして私はリハビリの部屋、冬は診察室の並ぶ方を捜索することになった。

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