第13話
「なんかお前、わかりやすいな」
「え?」
だってまた静止してるからと苦笑する冬。あわててどこかに移動しようと思って足の向きを変えると、隣に冬が立った。
私が動きを止めて見入っていたのは、布でできたピアスだった。細かく編まれた糸が縦に長い長方形のようになり、小さなDカンが上と下に通され、ピアスの元の部分に繋がれている。短冊のように揺れるピアスだ。
「これは西陣織っていう京都の伝統工芸を使って作られたものだな。いいんじゃないか?」
「綺麗……」
「春らしく桜色」
指先で摘んで私の耳元にピアスを持ってくる。まっすぐ先の鏡を見ると、くくった髪にピアスが馴染んでいる気がした。
「うん、似合ってる。どうする?」
(どうする?)
「わ、私……ほしい」
「よし。すいません、これください」
冬はそのままレジへ向かってしまうので、急いで背中を追いかける。私はベルトに付けたウェストポーチから財布を取り出そうとするも、なぜか手を止められてしまった。
「いいよ」
「お金の貸し借りは……」
「貸し借りじゃなくて、あげる」
「でも」
結局強く言えずに高いお金を払ってもらってしまった。ごめんと謝ると、
「そっちじゃなくてさ、違うのが聞きたいんだけど」
「え、あ、ありがとう……?」
「そう。そっちのほうがいいよ、ずっと」
店員さんに店の中ではめていくかと尋ねられたので、はいと答えるとそのまま渡される。
「お買い上げありがとうございました」
満面の笑顔で言われる。笑顔を見ていると、私の心までふわりと軽くなる気がする。
再び鏡の前に立って、今度は自分の手でピアスをはめてみる。両耳に新たな重みが加わると、鏡の中の自分と目があった。目線を傾けると冬と鏡越しに目が合う。
「気に入った?」
「うん、ありがとう」
そう言うと、冬は少し驚いた顔をして、そして。
「やっと笑った」
と、はにかんだ。
「え……?」
「ずっと気を張ってたみたいだから。笑ったところ見たことなかったから、心機一転できたならよかった」
プレゼントをもらってはじめて笑ったなんて、我ながら子供っぽくて嫌になってしまう。しかし冬はこう続けた。
「これは久々宮さんからの受け売りだけど、自分は大事にしろよ。自分と、自分を大事にしてくれる人は大事にしろ。もう独りじゃないんだから」
そして私に背を向けると、店の外に歩き出してしまった。また私はあわてて追いかける。
(そんなに表情硬かったのかな、私)
長らく笑うということをしていなかったからか、時間がかかったのだろう。
(私、冬の「どうする?」に、弱いのかも)
「……ありがとう」
「なんか言ったか?」
「う、ううん。なんでもない」
いつも選択肢をくれるのは、冬だ。
その時。
「えっ……」
「どうかしたか?」
「い、いや……なんでもない」
(すれ違った人……)
これが後に自分の精神を揺るがし、塗り替えるようなすれ違いになるとは、このときはまだ知らなかった。
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